新規システム開発を受注したら真っ先にすべきことは工程を管理する方法の整備です。工程管理の基盤を固めないことにはマネジメントのしようがありませんし、メンバーにしてみると終わりの見えないマラソンをさせられているようなものです。今回は工程管理表について解説します。
工程管理表を作成する、ということはスケジュールを作ることと同義です。システム開発が大規模になればなるほど、メンバーや工数が増えれば増えるほど工程管理は重要性を増してきます。
しかし、工程管理についてあなたは正しい理解ができているでしょうか。なんとなく先輩や同僚が使っていた言葉をマネしていたのであれば、この機会に正しく工程管理について理解しましょう。
目次
工程管理とは?
工程管理とは、プロジェクトの開始・終了時期から逆算して各工程の実行計画を立てることです。プロジェクトのスケジュール作成と理解すると分かりやすいです。
例えば、今から1週間後に新規システム開発プロジェクトが開始するとします。納期は開始から3か月後。この場合、いつまでにどの作業を終わらせていないとマズいのかを可視化したものが工程管理表です。
工程管理表を作成しない場合、プロジェクトが予定より遅れているのか確認する方法がありません。小規模で短期間のプロジェクトであれば辻褄合わせができたかもしれません。しかし、プロジェクトの規模が大きくなればなるほど工程管理の正確さがプロジェクトの成功を大きく左右するようになります。
工程管理を徹底すればプロジェクトの進捗管理ができるようになり、品質の向上や納期の短縮につながることもあります。マネージャーを目指すのであれば工程管理は必須のスキルです。
工程管理の定義
工程管理を辞書的に定義するなら「製品・サービス作りの進行を管理すること」です。IT業界で例えると、プロジェクトマネージャー(以下PM)やPMOが工程管理を担当する部署になります。
工程管理の目的は「製品を生産する際に品質と数量を確保するために労働力や材料、機械設備を最適に管理して効率の良い生産状態を維持するために管理すること」です。
IT業界に置き換えるなら「システムの品質維持と納期を守るために、人員の配置や作業計画を最適に管理して効率の良いプロジェクトマネージメントをすること」となります。
工程管理と似た言葉に「生産管理」「生産計画」「生産統制」があります。区別をつけるために、まとめて理解しておきましょう。
工程管理と生産管理の違い
生産管理は製造業でよく使われる手法です。仕入れや出荷・売上計上を問題なく行うために、生産管理の中に工程管理を組み込んでいるのが一般的です。
生産管理では材料の仕入れ・製品の出荷・売上管理などの製品の流れ全般について管理します。一方の工程管理では納期内で生産完了できるか、進捗に遅れはないかに焦点を当てて管理します。
どちらも生産活動に関して管理していますが、担当している範囲にズレがあります。またIT業界のシステム開発では、工程管理のほうが使われる場面が多いです。
生産計画と生産統制の違い
こちらも製造業でよく使われる言葉です。生産計画はその名の通り、作業フローの計画や使用する備品・機械などを決定することが目的です。
一方の生産統制は、生産計画に従って作業の手配や進捗管理をすることが目的です。生産統制と工程管理はほぼ同義ですが、システム開発の現場では「工程管理」と一括りにすることが多いです。
生産性を向上させる工程管理の手順
工程管理の意味は正しく理解できたと思います。では実際に工程管理を実施する場合、どのような行動をとるべきなのでしょうか。下記で詳しく解説します。
結論を先に書くと「PDCAを回そう」「3種類ある工程表を特徴に応じて使い分けよう」「情報量の多い現場では専用の工程管理を導入しよう」ということです。
PDCAを回そう
PDCAサイクルとは「Plan(計画)」「Do(行動)」「Check(確認)」「Action(実施)」の繰り返しを意味します。常にPDCAサイクルを回すことによって現場の問題・課題を改善していくことができます。
まずはPlan(計画)。工程管理を効率的に実行するには、データや経験に基づいた計画立案が不可欠です。過去のシステム開発から必要になる開発期間、達成できる品質レベル、発生する可能性のある不具合とその対処法を考慮して計画を立てましょう。
Do(行動)の段階では計画に従い、実際にシステム開発を進めます。この時に計画外の問題を発見するのも重要なポイントです。事前の計画では予想できなかった部分は次のCheck(確認)で活かされます。
Check(確認)では計画通りに進んだかどうかを総合的に判断します。想定外の問題について原因は何か、対応はどうするかといった改善案を作成します。
Action(行動)では改善案を実行に移します。その後は最初に立てた計画にこだわりすぎず、状況に応じて柔軟に対応します。必要に応じてもう一度PDCAを回してみても良いでしょう。
工程管理は試行錯誤の繰り返しです。失敗を防ごうとするのも大切ですが、工程管理においては「失敗は必ず発生するから常に改善を繰り返そう」という意識の方が上手くいきます。
工程表(横線式・曲線式・ネットワーク式)を使い分けよう
工程管理表は「横線式」「曲線式」「ネットワーク式」の3種類があります。それぞれ特徴があるので、用途に合わせて使い分けましょう。
「横線式」では上から下に各工程を書き込み、左から右へ時間を書き込みます。横線式では各工程に必要な期間はどのくらいか一目でチェックすることができます。作成の手間はかかりませんが、作業の詳細や工程間の関係性が分からない点がデメリットです。
「曲線式」は工程の進捗率をグラフで表す方法です。縦軸は工程の進捗率、横軸は時間の経過を表します。曲線式の特徴は、工程が予定通り進んでいるかどうかを一目でチェックできます。一方で具体的な作業内容が見えない点はデメリットです。
「ネットワーク式」は各工程の流れを矢印で示したものです。工程の全体像が分かるため、次にどの工程に移るべきかすぐに分かるというメリットがあります。
工程管理するならエクセル?専用ソフト?
工程管理は紙やエクセルを利用すれば手軽に作成することが可能です。しかし、リアルタイムでの情報共有に不向きなことや過去のデータ比較が難しいなどデメリットもあります。
工程や人員が多く、リアルタイムでの情報共有が重要なプロジェクトにおいては専用の工程管理システムを導入するのをおすすめします。
特に紙やエクセルでの工程管理表の場合、初心者がテンプレート通りに運用できるとは限りません。専用の工程管理システムの場合、書き方のテンプレートが決まっているので初心者も熟練者も同じように使いこなすことができる点が魅力です。
システム開発における工程管理
ここまでの内容は業界を問わない汎用的な工程管理でした。ここからはIT業界のシステム開発に焦点を当てた、システム開発の工程管理方法について解説します。
結論を書くと「作業工程を細分化しよう」「テンプレートを使って品質を保とう」「大規模開発を担当するなら工程管理ソフトは必須」という内容です。
WBSを作ろう
WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)は工程内の作業内容を細かく分けて把握することです。実装する機能単位で細かく工程を分けることで、進捗状況を詳細に把握することができます。
さらに、WBSで作業を分解すればボトルネックになっている工程をすぐにリサーチすることができます。納期遅れの原因をすぐに分析できるかどうかはマネージャーの評価に関わってきます。工程管理にはWBSを用いた作業工程の洗い出しと細分化が必要不可欠です。
工程管理のテンプレートを作ろう
WBSで作業を挙げていくと、工程管理表に記入する内容が膨大になります。1から作り直す必要はないので、テンプレートを作成して使いまわしましょう。
エクセルで工程管理表のテンプレートを作るのであれば、必ず工程管理する上でのルールを明記した、いわゆる標準書もセットで作成しましょう。エクセルでの工程管理表の運用は拡張性が高いですが、熟練者と新人では書き方に違いが生まれます。
記入に慣れた熟練者であれば、精度の高い工程管理表を作成することができます。しかし、慣れない作業者が工程管理表を記入する場合、過去に記載されていた指標に抜けモレが発生するリスクがあります。
仮に抜けモレが無い場合も油断はできません。エクセルでの工程管理表の運用は拡張性が高いため、時の工程管理者が工程管理表の仕様変更をするリスクもあります。仕様変更は悪いことではありませんが、過去データの整合性、統一性という観点から望ましくないです。
表記や記入方法の統一性は工程管理表の品質にも影響します。後にデータ活用する時に独特な書き方をしている箇所が分析不能にならないよう気をつけましょう。
工程管理ソフトを導入しよう
本当におすすめなので何度も紹介しますが、ノウハウの蓄積を真剣に考えているのであれば工程管理ソフトを導入しましょう。
エクセルで工程管理表を運用すると、いつのまにかルールを守らなくなったり記入漏れがあったりした場合でも気付きにくいです。
工程管理ソフトであれば記入方法は統一できます。また各種指標も一目で簡単に把握することができます。チェック項目の搭載で抜け漏れを防ぐなど、必ず一定以上の品質を保った工程管理が出来るようになります。
全体のまとめ
工程管理の強化はプロジェクトの成功率を上げるだけでなく、ノウハウの蓄積やコスト管理の強化にもつながります。
今後はAIやIoTの導入によって工程管理手法も変化していきます。それに対応していくためには工程管理の運用ルール整備や専用システムの導入は必須です。
今回紹介したノウハウを活かして、変化に対応する準備を始めましょう。
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