その“症状”、きっと治ります!プロジェクトマネジメントのお悩みに“効く”おすすめ本をご紹介【第3回】

プロジェクトマネジメントのお悩みに“効く” おすすめ本のご紹介 第3回

日々の業務を進めるなかでは実にさまざまな問題に見舞われます。何度会議を実施しても着地点が定まらなかったり、手段にこだわり過ぎるあまり、目的と手段がいつの間にか本末転倒していたり。関係者にプロジェクトの概要や状況を伝えるのに多大な労力を要してしまうこともあるのではないでしょうか。

本ブログではプロジェクトで起こる問題を病に見立て、その症状と原因に“効く”「おすすめ本」をピックアップして、全5回の連載でご紹介。第3回は「俯瞰不全症候群」「情報コスト高症候群」「コミュニケーション不全症候群」に効く本です。「プロジェクト・クリニック」の前田考歩氏に、さまざまなジャンルからおすすめ書籍を“処方”していただきます。

これら3つの症候群に共通する原因とは、一体どのようなことなのでしょうか?

選者/執筆:前田 考歩 氏

前田 考歩(まえだ・たかほ)氏
選者/執筆
前田 考歩(まえだ・たかほ)氏

プロジェクトの「言語化」と「構造化」を支援するツール「プ譜」を考案。「プ譜」を用いたコンサルティングやProject Based Learningの研修・授業を企業・教育機関向けに提供する『プロジェクト・クリニック』を運営。著書:『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(宣伝会議)『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本』(ソーテック社)等

こんな症状があったら、「俯瞰不全症候群」「情報コスト高症候群」「コミュニケーション不全症候群」かも知れません

  • 目的を実現するための手段だったものが、いつの間にかそこにこだわり過ぎて目的を見失ってしまっていた
  • 会議で議論があっちこっちに枝分かれして、肝心なことが決まらない
  • 着地点があいまいなまま会議が終わり、すぐに行動に移せない
  • プロジェクトの提案資料や状況の説明資料をつくったり、それを関係者に説明したりするのに時間がかかる
  • 説明された資料がわかりにくく、理解するのに時間がかかる
  • 自分が「こう」と認識していたことが、ほかの担当者とズレていた

このような症状が現れていたら、それは「俯瞰不全症候群」「情報コスト高症候群」「コミュニケーション不全症候群」の疑いがあります。

プロジェクトの問題症候群マップ

プロジェクトの問題症候群MAP(クリックで拡大)

原因:認知負荷が高い、全体感をとらえられない

この3つの症候群に共通した原因となっているのが、プロジェクトの仮説・全体像・関係性・状況過程を表現・対話・更新・共有する認知負荷の高さです。

人がものごとを考え、考えたことを文字や図表などでアウトプットし、それを理解するといった頭や心の働きを「認知」と言います。プロジェクトでは数多くのドキュメント(文書)を作成しますが、目標と手段(タスク)の関係やタスク間の依存関係、現在のプロジェクトが目標にどのくらい近づけているのかといったことを表現するのは非常に頭を使い、かつ難しい作業です。

また、自分たちのプロジェクトの目標を実現するためのタスクにはどのようなものがあるのか?そのタスクは全体のどの部分に位置するものなのか?どのタスクを終わらせないと次のタスクに取り組めないのか?……こういった、作業全体の把握やタスク管理の形式には、WBSやガントチャートなどがありますが、これらのドキュメントも早く、わかりやすく作らなければ時間の浪費につながってしまいます。

このような情報はプロジェクトの規模が大きくなるほど把握しづらく、それぞれの業務の関係性がわかりづらくなったりします。このような症状が「俯瞰不全症候群」で、このような情報を把握するために多くのドキュメントを作成したり会議を頻繁に開催したりしてしまうのが「情報コスト高症候群」です。そして、これらが原因で、プロジェクトメンバー間の認識にズレや齟齬が生まれてしまうのが「コミュニケーション不全症候群」です。

前回の記事で取り上げた「あいまい・多義性症候群」も影響を与えています。会議にはアジェンダや議事録、各種の資料があり、会社によって決まったフォーマットがあるでしょう。しかしいくらフォーマットを細かく規定したとしても、成功の定義があいまいで多義的であれば、議論や発言は容易に些末なものになったり発散してしまったりしてフォーマットはスカスカになります。また情報の項目をできるだけ増やした結果、本当に大事な情報の確認に時間をかけられなかったり見落としてしまったりという本末転倒な事態も起きます。

症状が悪化すると:ムラ・ムダが発生する、生産性が下がる、やりがいを失う

これらの症候群を放置しておくと、どのように症状を悪化させたり新しい病を引き起こすでしょうか?

たとえば、個々のメンバーの仕事がほかの誰に影響を与えているのかを理解していない(全体像を把握していない)と、他者が仕事しやすいような成果物をつくれず、担当業務間でムラやムダが起こって時間の浪費につながります。

各担当者は自分のタスクに一生懸命取り組んでいるのに全体には貢献しないという状況に拍車がかかると、個々の頑張りが報われない生産性の低いプロジェクトになってしまいます。さらに、稼働率や取り組みやすさを優先して優先順位の低い仕事に取り組んでしまうといった、場当たり対応・部分最適・根本問題の先送りという問題も生まれてきます。

処方箋:おすすめ書籍

これらの原因の予防や改善には、たとえば「わかりやすいパワーポイントの資料作成方法」などについての書籍ではなく、全体像を把握する方法や、人間の認知に対する理解を深める書籍が効果的です。

教養としての認知科学

問題解決にあたってどのような表現形式を利用するかによって、認知負荷が増減し問題がより難しくなったり解きやすくなったりします。「情報量が多く、複雑に絡み合うプロジェクトの計画をどのように表現すれば良いか?」という問題に、認知科学の視点からヒントを与えてくれます。俯瞰不全症候群、情報コスト高症候群におすすめ。

Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる

アジェンダも議事録も企画書も基本は文字で書き、口で説明するもの。しかし、言葉は“線形”にしか表現できない。ものごとの関係性や全体像を説明したいときの言語の限界と、それを解決するための「図」のメリットや使いこなし方を解説してくれます。特に第6章が勉強になります!俯瞰不全症候群、情報コスト高症候群におすすめ。

ミーティングのデザイン エンジニア、デザイナー、マネージャーが知っておくべき会議設計・運営ガイド

人間が保持できる情報の容量や頭に留め置いた情報を理解するプロセスなど、記憶のメカニズムの観点から 、限られた時間のなかで効率的にミーティングを進めるための方法が解説されています。キックオフ、定例や中間地点のミーティング、セールスやソフトウェア開発のミーティングなど、事例も豊富。コミュニケーション不全症候群。情報コスト高症候群におすすめ。

あいまいな会話はなぜ成立するのか

自分が相手に伝えたつもりのことが、相手には自分の思うようには伝わっていなかった。期待するのとは異なる受け止め方をされることがあります。反対にハッキリ言っていないにもかかわらず、しっかり伝わっていることもあります。そうしたあいまいだけれど成立するコミュニケーションは便利である一方、危険も孕んでいます。コミュニケーション不全症候群に。

ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜

上述した書籍の重要な概念を整理し、プロジェクトの仮説・全体像・関係性を表現しやすくかつ理解しやすくした「プ譜」の作成方法を解説しています。プ譜はどのようなテーマのプロジェクトにも適応できる汎用性と、小学生でも作ることのできる認知負荷の低さが支持されて、さまざまなプロジェクトで活用されています。今回扱った3つの症候群すべてに効き目があります。

おわりに

いかがでしたか?
各々が全体感を把握することで、個々のタスクの生産性は向上し、チーム全体の仕事が進みやすくなり、全体に貢献する成果につながる……というグッド・サイクルを回して行きたいですね。

Backlogにはプロジェクトの全体像や状況が把握しやすいガントチャートやボード機能、情報共有の工数削減につながるWiki機能や、コミュニケーション活性に役立つ「スター」機能など、これらの症候群改善に役立つ機能が備わっています。また、情報を伝える手段として作図に興味を持たれたら、Cacooをぜひご活用ください!

本ブログは全5回の連載で、プロジェクトの問題でよく見られる「〇〇症候群」の解説と、処方箋(おすすめ書籍)をご紹介してまいります。問題解決の糸口を見出すきっかけになれば幸いです。

第1回:プロジェクト経験不足

第2回:あいまい・多義性症候群

第3回:俯瞰不全症候群・情報コスト高症候群・コミュニケーション不全症候群

第4回:抱え込み症候群・中央集権症候群・フォロワーシップ不全症候群

第5回:後天性蛇足転変症候群

お楽しみに!

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