2013年に「日経電子版」のソフトウェア開発を100%外注から内製化、アジャイル開発に切り替え、開発サイクルやチームの抜本的な改革を見事成功させた日本経済新聞社。その取り組みは、多くの注目を浴び、400以上のはてなブックマーク数を獲得しました。
「あの『日経電子版開発チーム』が内製化とアジャイル開発の成功から6年がたった “その後” を語る!」では、内製化とアジャイル開発の成功体験を他の部署にも応用し、全社をあげて開発改革に取り組んでいる模様を取り上げました。
本記事では、同社が次に取り組む、個人やチームの開発成果と事業成果を結びつけるための「OKR(オーケーアール)」を導入したきっかけと運用、そして、成功したこと、失敗したことについてお伺いします。
■自己紹介(右から)
情報サービスユニット プロダクトマネージャー 斎藤祐也さん
デジタル編成ユニット プロダクトマネージャー武市大志さん
デジタル編成ユニット 西馬一郎さん
アジャイルライダー 長沢智治さん
目次
開発成果と事業目標を結びつけるためにOKRを導入
長沢:「あの「日経電子版開発チーム」が内製化とアジャイル開発の成功から6年がたった “その後” を語る!」でも取り上げましたが、内製化やアジャイル開発などの挑戦を続けてきた日経が最近「OKR」に取り組んでいると聞きました。OKRを導入したきっかけについて教えてください。
武市:現在の日経の開発チームは、内製化の仕組みができて、アジャイル開発によって開発力も上がり、チーム自体もどんどん大きくなっているという状況です。開発の下地ができて、運用も安定したこのタイミングで、何を作るか、どう決めるかが重要になってきました。
つまり、部署だけでなく会社全体で事業をよりドライブさせていく必要がある段階です。なので、開発内容と事業目的がきちんと結びついているのかを可視化するために、OKRを導入しました。
長沢:OKRをはじめてどれくらいの期間が経ちますか?
武市:2019年1月に導入して、8ヶ月たちました。日経では「こういう目標を達成したい」というのを数字でブレークダウンして、チームごとにやるべきことを可視化するためにOKRを活用しています。数字を達成するための施策は各チームに任しています。
OKR導入を機に、職能型から「混成型」チームに
長沢:OKRを導入するときに意識した点は何かありますか?
武市:チームを職能型から混成型に変更しました。これまでは、アプリチームやAPIチームなど、職能ごとにチームを固めていましたが、OKR導入を機に、アプリエンジニア、Webフロントエンジニア、サーバサイドエンジニア、マーケター、データアナリストなどいろいろな職種のメンバーを混ぜました。この方針の根本には「生産性よりも創造性」があります。
前者の職能型チームは生産性が高く、スピーディな開発に最適なので、改善を繰り返せば良い段階において相性が良いです。ただ、一気に事業をドライブさせようとか、今までできなかったことをやろう!という方針であれば、混成チームの方が各々でバックグラウンドが違う分、既存の枠組みでは生まれにくかった新しいアイデアが出てくる可能性があります。
長沢:なるほど。混成チームにしたことで効果みたいなものはありましたか?
武市:ビジネスサイドと開発サイドの隔たりみたいなものが少しずつなくなってきていると感じます。混成チームだと、これまでコミュニケーションをあまりとることの無かった職種の人たちが、同じ目標に向かって毎日議論するようになりました。その点はOKRを導入した大きな効果ですね。
長沢:ちなみに、OKRに対する社内の理解をどのように得たのですか?
武市:実施前に説明会を10回ぐらい実施して理解を得ていきました。あと、四半期ごとに振り返り会や日帰り合宿を実施しているので、そのときにOKRを使って成果の振り返りをしています。1日参加すれば、この3ヶ月なにをしてきたのか、ざっくりわかるようになっているので、上層部のメンバーにもこういうところでOKRの効果を感じてもらっています。
8ヶ月OKRをやってうまくいったこと、いかなかったこと
長沢:OKRを実際にやってみてうまくいったこと、いかなかったことはありますか?
武市:導入して8ヶ月経ってうまくいっている部分とうまくいっていない部分が見えてきました。
うまくいったのは、エンジニアが事業的な数字を意識するようになったことです。以前は、「技術的にこれを取り入れたい」とか「なんとなくここの仕様を変えたい」という案が出てきたときに、建設的な話し合いをするのが難しいこともありましたが、OKRを導入してからは「それは今本当にやるべきか」「事業に本当に結びついているのか」という問いかけが、これまでよりもできるようになりました。
エンジニアの開発内容が最終的に事業目標につながっているのか可視化できるので助かっています。
長沢:うまくいっていない側面としてはどんなことが挙げられますか?
武市:大前提として、チームメンバーはOKRの趣旨を理解して、Objectiveを達成できるように、自分たちが決めたKey Resultに向かって邁進してくれています。
ただ、この数字目標を達成するために、みんな「数を打つようになってくる」んですよね。OKRは3ヶ月という短い期間でできる施策を考えるので、チームが短期的にできることをこなしていくようになるんです。
長沢:OKRの性質上、短期的な施策になりがちですよね。
武市:そうですね。ポジティブな側面としては短い期間で切るからこそムーンショットが生まれるということもあると思うんですけど。
ネガティブな側面としては、施策の良し悪しがきちんと吟味されずに、施策の精度が下がることもあります。ただ、成果が出ている場合もあるので、もう少し精度を上げて組織的にもより良くしていきたいとは考えています。
他にも「3ヶ月という短い期間ではできないけど、こういうことをトライしたい!」という意見もあります。次回は、こういう長期的なObjectiveを立てられるようなOKRも作ってみたいですね。
日経のPMが見据える日経の事業成長の行方とは
長沢:2017年のRegional SCRUM GATHERING Tokyo で話されていた「穴のあいたバケツ開発」を例にすると、今の日経は事業的にも良いバケツができて、大きくなって穴も塞がって、蛇口を一気にひねってもいけるぞ、みたいな感じになっているんですかね。
武市:正直、まだまだですね。OKRをはじめてまだ8ヶ月ですし、1年くらいやってみて結果を振り返りたいです。ただ、少しずつ開発の組織が変わってきていると感じています。
チームの育成という観点で、内製化やOKRがうまくいくような研修や評価制度などの仕組みも並行して考えていく必要があります。この流れを一時的にしないように対策をしないといけないと考えていますね。
長沢:デジタル編成ユニット以外の事業部でもOKRの導入は検討されているのでしょうか?
斎藤:私が所属する情報サービスユニットでも将来的にはOKRを導入していきたいと考えています。ただ、情報サービスユニットは、外注の割合もまだ多く、内製化が道半ばなので、内製化が進んで自社メンバーが増えていったら、OKRを取り入れて、事業成果と開発結果を定量的に結びつけて評価していきたいです。
長沢:内製化やOKRの仕組みづくりなど、これまでも新しい取り組みをたくさんしてきた日経さんですが、今後も新しいチャレンジが続いていきそうですね。
西馬:そうですね。実はエンジニアが社内でモチベーション高く、楽しく仕事をすること、エンジニアが技術力の向上を通じて事業に貢献することが組織として重要だと考え、2018年11月から斎藤さん、武市さん、私などデジタル事業の仲間5人で「Developer Relations(DevRel)チーム」を立ち上げました。
具体的な活動としては、Webアプリケーションのパフォーマンス改善コンテスト「ISUCON」の社内開催や、Go言語の勉強会といったエンジニア同士の交流や技術力を高めるための勉強会の企画です。キャリアパスの検討、技術ブランディングの強化、開発者体験(Developer Experience)の向上などの中長期的な課題にも取り組んでいます。
長沢:OKRやDevRel活動など、常に挑戦的な取り組みを実践している日経さんは今後も多くの企業で注目されそうです。
西馬:ありがとうございます。私は日経に入社して17年経つのですが、自社の開発体制を長年見ていて感じるのは、常に挑戦を繰り返す環境だという点です。内製化やアジャイル開発、OKRなどロジックと情熱がある人に来てもらえば、どんどん新しいことに挑戦してトライアンドエラーを繰り返せます。もしこうした環境で挑戦したいエンジニアがいれば、ぜひチャレンジして欲しいです。
内製化とアジャイル開発の成功体験を他の部署にも応用し、全社をあげて開発改革に取り組み、そして事業をさらにドライブさせるために「OKR(オーケーアール)」を導入した日本経済新聞社。同社の開発に対する飽くなき向上心と実直さは「攻め」の挑戦を今後も後押しするだろう。
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