DXが進まない裏事情とは!?【プロジェクト「あるある」相談室】


こんにちは。一般社団法人日本PMO協会の伊藤大輔です。

私は現在まで、約380社に対してプロジェクトマネジメントの様々なご支援を行ってきました。その中で最近増えているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない」というご相談です。

今日は「DXが進まない裏事情」を3つお伝えするので、何かの気付きになれば幸いです。

裏事情①:DXを理解できていない。

「DX」と聞くと「ITを使って効率化して、労働時間を削減する」といったイメージを持っているかもしれません。確かに「効率化」することは大切なポイントですが、それが全てではありません。

逆に効率化を追及しすぎると、心身ともに疲れてしまうので、今一度、DXとは何かを組織全体で認識することが大切です。

経済産業省の「令和2年12月28日付 DXレポート2(デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会)」はDXの構造をとても分かりやすく紹介しているので紹介します。

まず「デジタルトランスメーション」というのは「トランスフォーメーション」という言葉が入っているため、ここで言う「トランスフォーメーション」とは、デジタルによる「ビジネス変革」となります。さらに紐解くと「ビジネスモデル変革」という意味となります。

こちらの図を解説すると、デジタルによるビジネスモデル変革をするために、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」が必要ということです。

デジタイゼーションとは


デジタイゼーションとは、アナログな情報をデジタル化するということです。皆さんも仕事の中で、いろいろな紙媒体などをデジタルデータ化したり、ミーティングをウェブ会議にしていると思います。

このようにアナログなものをデジタル化することを「デジタイゼーション」とイメージしてください。プロジェクトでデジタイゼーションを進めていると思いますが、それだけでは「ビジネスモデル変革」には到達しません。

デジタライゼーションとは


デジタライゼーションは、「個々の業務プロセスがデジタル化される」ということです。

ミーティングをウェブ会議にした場合、その会議で使用する資料作成、議事録の作成など、一連のプロセスがデジタル化します。

ひとつのデジタイゼーションによってデジタル化ができ、その前後のプロセスもデジタル処理ができるようになり、デジタイゼーションの点と点が線になって、プロセス全体がデジタル化され「デジタライゼーション」になるというイメージです。

デジタルトランスフォーメーションとは


デジタルトランスフォーメーションは、デジタライゼーションが複数プロセスで進むと、そのデジタル化されたプロセスの線がお互いに絡み合い、「面」となって「ビジネスモデル変革」が起こります。

ミーティングを例にすると、デジタライゼーションしたオンラインミーティングを営業でのミーティングやセミナーに組み込んだとします。そうすると全社のビジネスモデルのマーケティングやセールスの要素が変更され、これがビジネスモデル変革の一部になっていきます。

つまり、デジタル化の点が線となり、それが面になることで、アナログの時とはまったく異なったビジネスモデルができるイメージです。

裏事情②:ビジネスモデル変革とポートフォリオマネジメントをする人がいない。


既にお伝えした通り、何かをデジタル化しただけではビジネスモデル変革はしません。さらには、特定のプロセスをデジタル化しただけでもビジネスモデル変革は限定的です。

長期的視点、かつ戦略的、計画的に、自らのビジネスモデルのどの要素を、どの順番でデジタイゼーション、デジタライゼーションし、最終的にデジタルトランスフォーメーションに至るのか、しっかりとストーリーとしての青写真を描く必要があります。そのためには、これらができる人材が必要になります。

この人材や組織は、ITに詳しいというのは前提として、「ビジネスモデルの理解(ビジネスアーキテクチャの理解)」、「ポートフォリオマネジメント」の能力を有していることが大切です。

例えば、ある商品をネット通販で販売しようとしたとします。つまり「販売」や「店舗」をデジタイゼーションしてみたいということです。

しかし、それだけではデジタルトランスフォーメーションにはなりません。店舗と販売がオンラインになりデジタル化されるということは、広告/広報もオンラインに親和性のあるデジタル化を進めないといけません。

さらに通販におけるWEBサイトというのは、アナログ時代の店舗と同じですから、アナログ店舗と同じように「WEBのデザイン」というデジタル上のデザインが必要になってきます。

注文があった時のオペレーションプロセスもデジタル化が必要ですし、お金のもらい方も決済システム等でデジタル化が必要です。

このように、DXを推進していく組織や人材は、ビジネスの要素を構造化して、その要素をどの順番でデジタイゼーション、デジタライゼーションしていくのか考えなければいけません。そして、それぞれのプロジェクトにどのようにリソースを配分、投資しデジタルトランスフォーメーションに導いていくことが重要です。

経営企画だったり、CIO直下の専門部署などがこのような推進を行うことがありますが、いずれの組織においてもプロジェクトベースでDXを進める場合は、投資順序設定やプロジェクトへの資源配分のポートフォリオマネジメントが極めて重要となり、これらをEPMO(Enterprise PMO/全社型PMO)が担うこともあります。

裏事情③:意外にまだ労働人口が多くて、みんな優秀

日本でDXが進まない理由として、こんな裏事情があるのではないかと思っています。

それは、「意外に日本はまだ労働人口が多い」、さらに「意外に日本人は優秀でなんでもそれなりの仕事はできる」ということです。

総務省統計局のデータによれば、2021年の日本の労働力人口は平均で6,860 万人とあり、これは世界の国々の中でも10位に入ります。国単位で見ると、まだまだ働く人がそれなりに多いということです。

さらに、日本は「メンバーシップ型雇用」のため、自ら任されている仕事以外でも、頼まれたら他の仕事も協力することが多いと思います。また、ジェネラリストが多いせいか、自分の専門外の仕事でもなんとなくできてしまうことがあります。

こういう状況もあって、デジタルトランスフォーメーションを今すぐ進めなくても、「なんとなく仕事が回ってしまう」という事情もあると思います。

しかし、この状況は長く続きません。

労働人口の減少は確実ですし、ジョブ型雇用が進むと「ちょっと手伝って…」というのもなかなか難しくなります。DXを推進するためには、経営者だけではなく現場の管理者も「DXが進まない状態」に危機感を持って、改革を進めていく必要があります。

最後に

DXというと「生産性向上」や「効率化」という労働時間の削減だけにフォーカスされていますが、必ずしもそれだけではないことがお分かりいただけたと思います。

例えば、間接業務や製造・オペレーションの生産性をデジタイゼーション、デジタライゼーションで圧倒的に効率化し、そこで得られた経営資源を販売側に集中投入することで、「お客様とのさらなる関係構築強化」という他社と差別化した新たなビジネスモデル変革ができるわけです。

逆に顧客接点をデジタイゼーション、デジタライゼーションで圧倒的に効率化し、そこで得られた経営資源を、製品・サービスの開発に集中投入することで、「より高度な製品・サービス」という他社と差別化した新たなビジネスモデル変革ができるわけです。

DXプロジェクトがなかなか進まないと悩まれている場合、ぜひ今回お伝えした内容を参考にしていただき、DXを通じた最終的な「ありたい状態」を明確にしてから、個々のプロジェクトをデザインし、組織全員で「ありたい未来」を見て取り組んでみてはいかがでしょうか。

皆さんのDXプロジェクトが成功することを、心より祈念いたしております。

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プロフィール 伊藤大輔(いとう・だいすけ)

一般社団法人日本PMO協会 代表理事/青山学院大学大学院(MBAプログラム) 非常勤講師/群馬大学 非常勤講師。プロジェクトマネジメント国際資格者(PMP®)、MBA。著書・YouTube・企業研修・セミナーなどを通じて、50,000人以上にプロジェクトマネジメントの素晴らしさを伝えている。ベストセラー著者。

日本PMO協会:https://www.npmo.org/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCFOjnLt9wrDwX7tP3F5hTig
著書:https://www.japan-project-solutions.com/jps-books

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