皆さん、こんにちは。Backlogチームは2018年に、Backlogのビジョン・ミッション・バリューを整理しました。そのときの経験をもとに、Backlogが15年にわたってユーザーの皆さんに愛されてきた理由を考えたので、Backlogの誕生の歴史とともに振り返ります。
目次
簡単に自己紹介
小久保と言います。名古屋市在住です。今年で入社して2年経ちました。
ヌーラボではちょっと変わった働き方をしてますので興味があるかたはこちらをご覧ください。
福岡の会社に名古屋からリモートで働きながら毎週あちこち新幹線で移動する生活
最近は主にBacklogの開発チームのなかで、チーム全体の生産性を向上させるための仕組みづくりをやっていることが多いです。
プロダクトに関する仕事だと、ちょっと前にチャット連携をチームのみんなとリリースしました。
Backlogのチャット連携強化!Typetalk、Slack、Chatworkに対応しました
Backlogがうまれた理由
Backlogがどのようにうまれてきたのか、少しふりかえってみたいと思います。
Backlogは約15年前に福岡の株式会社ヌーラボでつくられました。当時は今ほど便利なツールが潤沢にはありませんでした。
(当時の自分は、所属していた名古屋の会社でBacklogを横目にRedmineを導入して、ゴリゴリに本体のコードをいじったり、プラグインを書いたりしてプロジェクト管理ツールと社内の開発プロセスの番人みたいなことをやっていました)
当時ヌーラボでは、自社の受託開発の課題管理として、Bugzillaを使っていたそうです。Bugzillaを使ったときに感じた 「ツールを使うのではなく、ツールに使われている」 という体験がBacklogがつくられるきっかけとなりました。
プロジェクトのメンバーがプロジェクトを上手に進めるためにツールを使う、というよりもプロジェクトの管理者がメンバーを管理するためのツール、という印象を覚えた、とのことです。
そのときのツールに対する問題意識から 「誰でも使いこなせる、みんなのためのプロジェクト管理ツールをつくろう」 という思いでBacklogがつくられました。
Backlogが成長できた理由
当時ほぼ無名だったBacklogは幾度の転換点を経て、市場の中で生き抜いて、成長してきました。その原動力を、ふりかえって整理してみました。
理由その1: 人と人とのコミュニケーションにフォーカスしてきた
今では当たり前のようにSlackや色んなツールでもユーザーのアイコンを設定できますが15年前の業務用ツールではまだ当たり前ではありませんでした。(toCのサービスではTwitterやmixiなどで既に当たり前になってたと思います)
また、Backlogでは課題やWikiにスターを付けることができます(すごく簡単に言うとSNSでのLikeです)。はてなスターにインスパイアされてできた機能ですが、この機能があることで、テキストでのコミュニケーション以上の情報を伝えることができます。これもtoBのサービスでは珍しく、Backlogが人と人とのコミュニケーションを重視していたことが伺えます。
理由その2: 誰にでも使える管理ツール
当時のツールは主にBug Tracking System(BTS)としてソフトウェアの開発者向けにつくられていました。ツールを使いこなす、というよりも、ツールに自分たちの使い方をあわせる必要がありました。
Backlogでは管理者だけにプロジェクト管理ツールを提供するのではなく、Backlogを使う一般ユーザーにも便利に使ってもらいたい、という価値観があります。
そのためBacklogのUIはあえて業務ツールの感覚を薄めるために、敢えて余白を空けて情報の密度を低くしたり、ゴリラのマスコットキャラクターがいたり、絵文字を使えるようになっています。
イベントなどでよくBacklogユーザーの方から「BacklogはITエンジニア以外の人にも使ってもらえるツール」という評価をいただきますが、そのたびにBacklogの偉大さを思い知らされます。
理由その3: Backlogを入れるだけではじめられる
Backlogは課題管理だけではなく、Wikiやファイル共有、Git/Subversionのホスティングまで網羅しています。
厳しく言うと、手広く機能を追加しすぎている、という見方もできますが、Backlogを導入すればすぐにプロジェクトを開始できる、というお手軽さが魅力の一つとして、成長要因になっていたことは確かです。
アイコンやLikeや、絵文字など、どれも最近のWebサービスでは当たり前になっているコミュニケーション要素ですが、Backlogは10年前くらいから取り入れていました。誕生初期から変わることなくこの価値観でつくられていることが成長してきた一番の理由であり、ぼくが尊敬の念を感じるポイントです。
昔のBacklogのビジョン・ミッション・バリュー
Backlogには昔からミッションとバリューがドキュメントされていました。これが当時のドキュメントです。
「人にフォーカス」「誰でも簡単に」「オールインワン」がBacklogを支える3本柱です。 ツールに自分たちが使われるのではなく、自分たちのために使えるツール になることを目指していたことがわかると思います。
また「Backlogがやらないこと」で、Backlogではないものを補足しています。やることリストと同時にやらないことリストをつくるような感覚ですね。やることと、やらないことを決めることで、わかりやすくイメージできる効果がありました。
ビジョン・ミッションを見つめ直すきっかけ
当時のビジョン・ミッション・バリューで大事にしたい思想は今でも変わりませんが、あらためて見つめ直す機運が出てきました。
言葉の表現を整理
言葉の表現として、少し古く感じるところが出てきました。
たとえば15年前のBacklogは「オールインワン」であることが重視されていましたが、最近ではオールインワンであることよりも、他のWebサービスとのインテグレーションを求められるようになっています。
外国語の小説や技術書の翻訳も、時代の流れとともに言葉の表現がアップデートされて、より現代的な言葉に翻訳しなおされることがあります。それと同じことが必要だと感じました。
チームの成長
ここ数年でチームが成長し、人も増えたため、今後のプロダクト開発を上手に主導していく求心力になるものが必要になってきました。
あらためてBacklogとは何か?を考えることで、チーム全体をまとめたい、と思いました。
Backlogのビジョン・ミッションを整理した
ビジョン・ミッションを整理するにあたって、当時のBacklogのプロダクトマネージャーと、(ぼくを含めた)プロダクトオーナー2名が集まりました。
あらためて、なぜBacklogをつくったのか?、どういう想いや、価値観が込められているのかCacooを使って書き出してみました。作業はリモートで行い、名古屋の自宅と福岡本社をオンラインミーティングでつないで共同作業することでほぼ完結しました。(手前味噌ですが、こういう作業をするのにCacooはとても適切なツールです)
- Cacooを開いて、ビジョン・ミッション・バリューという枠をつくる
- それぞれの枠で思いつくことを言葉にして並べてみる
- 一つ一つの言葉の背景を掘り下げる
- なぜそう思った?
- それは他の◯◯とは違う意味なのか?
- 言葉どうしの関連を考えてみる
- 包含関係はあるか
- 2つの言葉をつなげて、より一般化した言葉に置き換えてみるとどうか
- Backlogのビジョン・ミッションではないもの
- Backlogが未来永劫やらないと決めてることは何か
以上の、プロセスを繰り返し行うことで、Backlogのあるべき姿が次第に見えてきて、整理されていきました。そのときの様子の一部です。
発散して収束して、また発散して…
Backlogを形づくる要素を一つ一つの言葉にして、言葉の意味を掘り下げて、言葉と言葉の関連を集めて抽象化してみたり、言葉をこねくりまわしました。
そこから散らばった言葉を拾い上げてつなげてみて、一つの表現としてまとめてみたり、また分解してみたり‥といったことを何度か繰り返しているうちに、少しずつしっくり来る形が見えてきました。
「働く」と「はたらく」の微妙なニュアンスの違いなどを取り上げてあーだこーだと議論を繰り返しました。そして、なんどか発散と収束を繰り返して、プロダクトとしてのあるべき姿、世界へ訴えたい想い、が文章になりました。
例えば
- 仕事を楽しんでやってはいけない、という雰囲気があるけど、仕事を楽しむことは悪いことではない
- → 仕事でもなんでも楽しんでやった方がチームワークはうまくいくとはず
- → チームワークがうまくいけばプロジェクトが成功する確度がきっと上がるんだ
- → 仕事でもなんでも楽しんでやった方がチームワークはうまくいくとはず
- 笑顔で働いて成功するチームってどんなチーム?
- そもそも成功とは?
- 成功の定義は人によって違うよね
- 笑顔じゃなくても成功することはできるよね
- → 結果ではなく過程を大事にしたい
- → 成功の定義は様々だけど、ぼくたちは笑顔で働くことがチームとプロジェクトが成功する秘訣だと信じたい
というような連想をつなげて言葉にしていきました。
あたらしくなったBacklogのビジョン・ミッション
以上の過程を経て、あたらしくなったビジョン・ミッションがこちらです。
以前よりも、大事なことをコンパクトに表現できるようになりました。
「誰もが笑顔ではたらくことができ、成功するチームを世界中に増やす」のがビジョンで、「チームではたらくすべての人のためのプロジェクト管理ツールを提供する」がミッションです。
読み比べてもらえばわかりますが、以前のビジョン・ミッションと大きくは変わっていません。Backlogが普遍的にもつ価値観が土台としてあったため、大きく変える必要もありませんでした。
開発初期の価値観はそのままに、より最近の世の中の流れに沿った形でアップデートできました。
あたらしくなったビジョン・ミッションは、社内のドキュメントのあちこちで使われています。
プロダクトにビジョン・ミッションがあることの意味
最後に簡単ですが、プロダクトにビジョン・ミッションがあることの意味について個人的な意見として考えてみたことです。
1. プロダクトの存在を肯定する
仕事をするうえでの資本は事業の売上から、仕事のモチベーションはプロダクトのビジョンからうまれるとぼくは思います。
個人差があると思いますが、プロダクトが持つ社会へのインパクトの大きさが、大きなモチベーションへとつながります。
プロダクトが世の中に存在する理由を見出す限り、成長が止まることはありません。
2. プロダクトをつくるうえでの羅針盤になる
BacklogのようなSaaS型(昔ながらのASPという呼ばれ方もあります)のプロダクトはつねに開発が進み、成長しています。
新しい機能を無軌道に追加していくだけでは、多機能ではあっても使いにくいプロダクトになってしまいます。
そもそも自分たちがつくっているプロダクトは何なのか?迷ったときに行き先の方向を示してくれる道標になってくれます。
(※ Backlogにはオンプレミスで使えるエンタープライズ版もあります)
3. プロダクトのブランディング
数年前にLENS ASSOCIATESというデザイン会社の方のセミナーを受講したときにブランドは3つの要素によってつくられるという話を聴きました。
- (プロダクトが)過去に積み上げてきたHistory
- (プロダクトの)これからの成長を描くStory
- 過去から未来における普遍的な価値観としてのPhilosophy
ユーザーはプロダクトを通してサービスとしてHistory, Story, Phiosophyを感じることで、ブランドがつくられていく。なのでそれらが正しく伝わるようにデザインしないといけない、という話でした。
これらの中でも、一番大事なのは普遍的なメッセージとして発信する哲学(Philosophy)であり、まさしくこれこそがビジョン・ミッションだと思いました。
多種多様なツールが世界中にあふれている今、どのような哲学をもってプロダクトをつくって世界を変えていくのか、Backlogだけではなく、すべてのプロダクトに等しく求められていると感じます。
プロダクトからサービスへ
プロダクトのビジョン・ミッションはプロダクトをつくるだけでなく、サービス全体の質にも影響します。
- プロダクトを使ってもらうユーザーをどのようにサポートするか
- ユーザーに使ってもらうためにどのようなコンテンツを提供するか
- どのようにプロダクトの使い方をユーザーに伝えていくか
ユーザーの日々の仕事の中で役に立ってもらえるために、プロダクトをどのように提供するのが適切なのか。ユーザーが困ってる場合にどうアプローチするべきか。サービス全体を通して貫く哲学をパッケージングすることにも、ビジョン・ミッションが役立つのではないかと思います。
謝辞と敬意をこめて
Backlogは15年間、さまざまな人の努力によって、ユーザー数100万人を超える(2018年時点)規模まで成長しました。
正直なことを言うと、ぼくはヌーラボに入社するまではそこまでBacklogに興味があったわけではありませんでした。自分自身はRedmineをゴリゴリにカスタマイズするプロジェクト管理ツールマニアでした。
そんなマニアからすると、Backlogはカスタマイズもできないし、業務に一見無用とも思えるポップな感じで敬遠してました。
しかし、Backlogの開発に携わるようになり、誕生時のビジョンを聴き、取材やカンファレンスやコミュニティでユーザーのリアルな声を聴いていると、Backlogがどれだけ素晴らしいプロダクトなのか思い知りました。
Backlogにかかわる造り手とユーザーの人たちの話を聞くことで、Backlogのことが好きになりました。
Backlogはこれからも止まることなく成長を続けていきます。そして、ここまでこれたのは、15年前にBacklogのビジョンを描き、まだ売上も満足に立たない頃から受託開発と平行して、開発を継続してきた人たちの成果によるところが大きいのも確かです。
その人たちが土を耕して、種を植えたことが、今大きく花開く結果になった感じています。この記事はBacklogを生み出し、いつか花開くことを信じ、毎日水を与えて育て続けた人たちに捧げます。
15年の重みを感じながらこれからも頑張っていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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