2018年6月18日にヌーラボ東京オフィスにて、ヌーラボ主催のセミナーイベント「SaaS企業のカスタマーサクセス-コミュニケーションとタスク管理の最適解を探る-」を開催しました。SmartHR、元Kaizen Platform、Backlogのカスタマーサクセス担当者が語るカスタマーサクセスの意義と役割とは?当日の模様をレポートします!
リアルタイムな盛り上がりを感じたい方は「Backlog Meetup:『SaaS企業のカスタマーサクセス-コミュニケーションとタスク管理の最適解を探る-』」のまとめをご覧くださいね💡
XaaS企業がカスタマーサクセスを必要とする3つの理由(岡田奈津子)
最初の登壇者は、GREEでマーケター、Kaizen Platformでカスタマーサクセスの立ち上げを経験した、岡田奈津子さんです。
なぜ、いまカスタマーサクセスなのか?
岡田さんは「なぜXaaS企業にカスタマーサクセスが必要とされているのか」という理由を語る上で、所有から利用・共有・体験へ変化している消費者のニーズを例にあげました。
消費者ニーズの変化に伴い、XaaS企業は従来のパッケージ型の販売モデルからサブスクリプション型の販売モデルに移行しています。その一例としてAdobe社の事例があります。
同社はパッケージ製品でもあるAdobe Creative Suiteをひとつ十万以上の単価で販売していました。しかし、2012年からビジネスモデルをサブスクプション型のCreative Cloudに切り替え、定額プランで80USドル/月という価格設定をしました。結果として、Adobe社の株価は4倍になり、売り上げも増加したことから、企業にとってサブスクリプションの方が収益性が高いことが実証されました。
サブスクリプションの時代では、業績の指標は「チャーンレート(解約率)を低くすること」にあります。多くの場合、95%の継続率を維持することがサブスクリプション型のビジネスを採用する企業に求められています。
カスタマーサクセスの役割とは
カスタマーサクセスとは自社の製品・サービスを通じて
- 顧客が期待している価値を届け
- 顧客を成功へと導くために製品・サービスを改善し
- 結果として、顧客がその成果を周囲に伝えてくれること
と岡田さんは定義しています。
顧客の成功を導くためには「顧客の声(Voice of Customer)」をすくい上げることが重要だ、と岡田さんは語ります。言い換えると、顧客に選ばれ続ける存在になるためには、顧客が使い続けたくなるサービス作りが必須です。
「顧客の声を自社サービスに活かす」というのはプロダクト開発チームだけではなく、営業やマーケターにも求められています。顧客の声を真っ先に広い、現場にフィードバックするのはカスタマーサクセスの役割でもあります。
カスタマーサクセスは「カスタマーがサービスを継続してくれるように伴走するひと」と定義されています。
営業とカスタマーサクセスの大きな違いとして、営業は自社を主語にして顧客や社内を巻き込んでいきますが、カスタマーサクセスの場合は、カスタマーを主語にして、カスタマーの悩みを解決するために開発者に情報共有をします。言い換えるとカスタマーの目標が自分たちの目標です。
一方で、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いは「リアクティブなサポートかプロアクティブなサポートか」だと岡田さんは話します。
カスタマーサポートはカスタマーからの問合せを起点にリアクティブに効率よく問い合わせに対応しますが、カスタマーサクセスはデータに基づきカスタマーの陥りやすい課題を先回りして解決し、プロアクティブなサポートをします。
カスタマーサクセスの取り組み方とアンチパターン
カスタマーサクセスを実際に取り組む上での考え方とアンチパターンについても紹介してくれました。
カスタマーサクセスは顧客を3段階のヒエラルキーに分けることで実践できます。一番上は「ハイタッチ」次に「ロータッチ」最後に「テックタッチ」と呼ばれています。これらは従業員規模によって分けられていたり、顧客とのエンゲージメントの度合いによって分けられており、ヒエラルキーが下に広がっていくにつれて自動化が進んでいきます。
最後に岡田さんは複数の企業にインタビューした経験も踏まえて、カスタマーサクセスのアンチパターン「1.知見の属人化」「2.業務の肥大化」「3.組織の形骸化」「4.方針の迷走化」の4つをあげてくださいました。
カスタマーサクセスを円滑に進める際のポイントとしては
- チームでの情報共有への向き合い方や顧客対応の属人化の防止
- 1人あたりの業務量の調整とタスクの進捗をチームで意識する
- 組織や経営陣に対してカスタマーサクセスの理解を促す
といったことを挙げていました。「属人化を防ぐための情報共有」「業務量の調整」「タスクの進捗への意識」は、カスタマーサクセスに限らず、プロジェクト管理をする上で重要な要素なので、私自身もとても納得しながらお話をお伺いしました。
最後に、岡田さんも参加するカスタマーサクセスのコミュニティを紹介してくださいました。興味のある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
岡田さんの発表内容の詳細はこちらの資料をご覧くださいね。
SmartHRのオンボーディング戦略(SmartHR 高橋昌臣)
次に登壇したのは、株式会社SmartHRでカスタマーサクセスを立ち上げ、運用まで包括的に担当している高橋昌臣さんです。
実は、高橋さんはBacklog利用歴11年目を迎えます!前職から利用していたそうで、現在はSmartHRのカスタマーサクセスのタスク管理や顧客とのコミュニケーションにBacklogを活用しています。今回、こちらの取材記事がきっかけでご登壇いただきました!
SmartHRのオンボーディング戦略とは
SmartHRのカスタマーサクセスは2016年上期から始まり、2018年現在まで続いています。組織は以下のように変遷しています。
- 2016年下期:intercomでのチャットサポートと訪問サポートを2~3.5名体制で行う。
- 2017年上期:訪問サポートの増加にくわえ、チャットサポートと初期導入サポートで業務内容が異なってきたため、チームの分割を実施。
- 2017年下期:初期導入サポートを中心に。年末調整機能のサポートがカスタマーサクセスの比重を占めるようになった。チームメンバーは5名体制に。
- 2018年上期〜:担当を決めて仕組みづくりに着手。Early Warning Systemの導入・運用とカスタマーサクセスの組織作りを強化している。現在は7名体制に。
SmartHRのカスタマーサクセスの施策は、先ほど岡田さんも説明した三角図で作られています。SmartHRではトップのハイタッチからテックタッチに自社の呼称をつけているそうです。
ハイタッチは「Enterprise CSM」と呼ばれており、従業員規模が500名以上の企業やエンゲージメントが深い企業が該当します。SmartHRのカスタマーサクセスではこの層の顧客に対して、定期的な顧客訪問や定例を実施しています。
また、顧客との伴走にはBacklogを使い、オンボーディングや運用のタスク管理から顧客とのコミュニケーションにまで広く活用しているそうです。
ロータッチは「CSM」と呼ばれており、51名から500名規模の企業が該当します。こちらは電話やメールでのコミュニケーションがメインとなるそうです。最下部のテックタッチは「Automation Manager」と呼ばれており、基本的にはセルフオンボーディングという形をとっています。
SmartHRカスタマーサクセスのトライアンドエラー
2016年から2018年までの3年間、実際にカスタマーサクセスをやってみて、高橋さん自身が体験したカスタマーサクセスのトライアンドエラーについても紹介してくださいました。
2017年は2名から最大5名体制で、導入サポートを軸に営業同行をしていた高橋さん。その際に、顧客との関係づくりのヒントや有益な情報が秘伝のタレ化してしまうという課題を感じていたそうです。
1人で担っていた時期が長く、引き継ぎを考慮していないチームづくりが起因して、なかなかスケールしないといった問題や、アップセル・リニューアル部隊から「導入後のサポートが不十分で顧客との関係づくりができておらず、アップセルなどのフェーズに顧客を持っていくことができない」という指摘を受けることもありました。
解決策として、オンボーディングフローの設計とやることとやらないことの明確化に取り組みました。具体的には キックオフ(WebMTGを実施)▶︎トレーニング(顧客にレクチャー)▶︎状況確認(リストの確認)▶︎クロージング(運用状況のヒアリングと今後の機能リリースで解決できそうなことを確認して次につなげる) というフローでオンボーディングを進めました。
またこの際に、オンボーディングでの顧客とのコミュニケーションや関係性などを属人化させないためにも、Backlogで顧客とコミュニケーションをとって情報をチームに共有することも決めたそうです。
SmartHRのオンボーディングの未来
高橋さんは、SmartHRのカスタマーサクセスについて「セルフサービス化」を進めていきたいと語りました。具体的には、チェック式のチュートリアル・動画コンテンツ・ヘルプセンターの充実・Webinarの活用・利用状況に合わせたコンテンツ配信などコンテンツの拡充です。
最後にSmartHRのカスタマーサクセスを円滑に進めるためにもっとも意識している点として「仕事を細分化しすぎないこと」ということで話を締めました。SmartHRのカスタマーサクセスは採用にも力を入れているそうなので、ぜひ興味のある方はのぞいてみてください。
高橋さんの発表内容の詳細はこちらをご覧くださいね。
顧客とともに成功する基盤としてのBacklog(ヌーラボ 鍋島理人)
本セミナーイベントの締めを飾ったのは、ヌーラボ カスタマーサクセス担当で鍋島理人です。
ヌーラボのカスタマーサクセスとサービス作り
ヌーラボはBacklog、Cacoo、Typetalkの3つのサービスを開発・運用しています。
エンジニアが過半数を占めており、営業がいないことで知られているヌーラボでは、限られた人数のカスタマーサクセス、サポート、マーケター各人が、顧客の声を積極的に拾うことを重視しています。岡田さんが紹介した「Voice of Customer(顧客の声)」の考え方のように、ヌーラボでも顧客の声をプロダクト開発につなげています。
そのため、ヌーラボのカスタマーサクセスでは、顧客のニーズをプロアクティブに把握して、開発者に共有し、プロダクトを改善することが求められます。
鍋島は日々こうした仕事を進めるなかで「様々なチャネルからくる情報をどう整理するか」という課題に取り組んでいます。カスタマーサクセスは顧客以外にも、開発者、サポートチーム、マーケターなど関わるステークホルダーが多い傾向にあり、それはヌーラボでも同じです。
情報管理という観点で常に気をつけなければ、どこに・何を共有しているのか、が混線します。
そこでヌーラボのカスタマーサクセスで提唱しているのが「Backlogを活用したユーザーの課題管理」です。具体的には、
- intercomのチャットやSNSであげられた顧客からのフィードバックをBacklogの課題で管理
- 顧客との会話・訪問履歴フィードバックも課題で関連付けして管理
- Wikiを活用して対応手順の形式知化・ナレッジを蓄積
という取り組みをしています。カスタマーサクセスが本格的に立ち上がって1年ですが、徐々にカスタマーサクセスと開発チーム、マーケティングなど関連部署間での情報共有の仕組みが形になっているそうです。
Backlogがカスタマーサクセスに貢献できること
SmartHRの高橋さんと岡田さんが話していたように、カスタマーサクセスのアンチパターンに、知見の属人化、業務の肥大化という問題もあります。
こうした問題は、各々のタスクや握っている情報を可視化して、周囲に共有することが重要です。もちろんBacklogはこうしたことを円滑にできるツールではありますが、ツールを導入したからといってすべてがうまくいくような銀の弾丸はありません。
組織全体でカスタマーサクセスの役割とその意味について認識した上で、顧客の成功を実現することこそが、最終的なゴールです。
鍋島の資料はこちらをご覧くださいね。
まとめ:カスタマーサクセスにおいて顧客との密なコミュニケーションは不可欠
以上、3社によるカスタマーサクセスのお話でした。
セミナーイベントの参加者の多くの方が、カスタマーサクセスをすでに実践されている訳ではなく、まさに始めようされている方でした。
岡田さんがお話されたように、今後、SaaSやXaaS企業におけるカスタマーサクセスの役割は重要性を増していくことは間違いありません。ヌーラボやBacklogは、カスタマーサクセスのみなさまの仕事を円滑に進めるためのサポートに積極的に貢献していこうと考えています。
もしカスタマーサクセスのタスク管理や顧客とのコミュニケーションについてご相談したい方がおりましたら、こちらのフォームからお問い合わせください。
また、今回登壇したSmartHRの高橋さんのBacklog活用事例の詳細はこちらの記事からお読みいただけます。本記事と併せて、みなさんのカスタマーサクセスにぜひお役立ちできると幸いです!👍
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