その“症状”、きっと治ります!プロジェクトマネジメントのお悩みに“効く”本をご紹介【第2回】

プロジェクトマネジメントのお悩みに“効く” おすすめ本のご紹介 第2回日々の業務を進めるなかでは実にさまざまな問題に見舞われます。ステークホルダーが多すぎて、想定よりも大幅にタスクが増えてしまったり、何を優先すべきなのかがわからなくなったり。なんとか完了したプロジェクトも、果たして成功したと言えるのか、判断基準があいまいで評価しにくいことも。

このような状況を身近に感じる方も多いのではないでしょうか?

本ブログではプロジェクトで起こる問題を病に見立て、その症状と原因に“効く”「おすすめ本」をピックアップして、全5回の連載でご紹介。第2回は「あいまい・多義性症候群」に効く本です。「プロジェクト・クリニック」の前田考歩氏に、さまざまなジャンルからおすすめ書籍を“処方”していただきます。

普段、自分では選ばないような書籍が、まったく新しい切り口で参考になったり、「目からウロコ」の気づきにつながったりするかも知れません…!

選者/執筆:前田 考歩 氏

前田 考歩(まえだ・たかほ)氏
選者/執筆
前田 考歩(まえだ・たかほ)氏

プロジェクトの「言語化」と「構造化」を支援するツール「プ譜」を考案。「プ譜」を用いたコンサルティングやProject Based Learningの研修・授業を企業・教育機関向けに提供する『プロジェクト・クリニック』を運営。著書:『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(宣伝会議)『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本』(ソーテック社)等

こんな症状があったら、「あいまい・多義性症候群」かも知れません

  • プロジェクトを任されたものの、目標がふわっとしている
  • 関係者のやりたいことが盛り込まれすぎている
  • 優先順位を決められない。トレードオフが判断できない
  • 何がすべきことで何はしなくていいことなのかわからない
  • プロジェクトの成果をどのように測ればいいかわからない

日々の業務を進める中で、このような症状は出ていませんか?
これらの症状が集まり、ある症状がまた別の症状の原因になっているのが「あいまい・多義性症候群」です。

プロジェクトの問題症候群マップ

プロジェクトの問題症候群マップ あいまい・多義性症候群プロジェクトの問題症候群MAP(クリックで拡大)

原因:成功の定義、勝利条件が決まっていない

これらの症状が起こる最も根本的な原因は、成功の定義がないことです。
プロジェクトを実行して、何がどのようになっていたら成功と言えるのか?
プロジェクトを始める前と後で、どのような変化が起きていたら成功と言えるのか?
これを言語化したものが成功の定義です。

多くのプロジェクトでは、たとえば「業務改善システムを導入する」という目標はあっても、「システムを導入して、従業員の何がどうなっていたら成功か?」という本来のゴールを忘れているケースが見られます。つまり、成功の定義がない=勝利条件が決まっていないのです。あったとしても表現があいまいでぼんやりしていたり、関係者によって思い描いているものが違うということがあります(症候群の名前に入っている「多義性」は、一つのものごとに対し複数の解釈が存在することを意味します)。

成功の定義はプロジェクトの成否を評価するだけでなく、方針や優先順位を決めるといった意思決定の基準にもなる、とても重要なものなのです。

症状が悪化すると:タスクが増える、プロジェクトが遅延する、「思っていたのと違う」

この症候群をそのままにしておくと、そもそもの目標がふわっとしているので、「あれもこれもやったほうがいい」という考えになり、実行するタスクの量がどんどん増えてしまいます。量が増えれば実行に必要な人手や時間が増え、プロジェクトの予算や納期を超過する原因になってしまうでしょう。判断基準のあいまいさも、意思決定のスピードを遅らせます。

成功のイメージが多義的なままだと、メンバー間で認識の食い違いが起き、いざ成果物ができあがってきたときに「思っていたのと違う」という結果を招きます。これは「コミュニケーション不全症候群」や「縦割り・分業症候群」の原因になります。「思っていたのと違う」は、手戻りを生み、時間を浪費してしまいます。

ステークホルダーから意見を募るのは良いことですが、集めるだけ集めて際限なくタスクを増やしてしまっては、限られた時間と資源で行うプロジェクトの成功は望むべくもありません。

処方箋:おすすめ書籍

これらの原因の予防や改善に効く処方箋には以下の書籍がお勧めです。

アブダクション: 仮説と発見の論理

事例や情報をどこまでも集めてもキリがない。いったん仮説を設定して、それを未来からふりかえるように仕上げる、“適切な説明のための仮説をつくる方法”、「アブダクション(仮説的推論)」。よく知られる演繹でも帰納でもない、第3の推論の方法。新規事業系の仕事では御用達の思考法です。

新しいリハビリテーション

あいまいさを過度に拒むことで、最初に立てた計画に固執してしまうことがあります。しかし、目的と手段の組み合わせは必ずしも固定的なものではなく、実はかなりの柔軟性があります。このことをリハビリテーションの分野でわかりやすく説明してくれています。

人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?

考えられる手をすべてシミュレーションすれば成功するかも知れない。しかし、現実的にそれができるのはコンピューターだけ。限られた時間とお金で正解にたどり着くための人工知能の「探索」と「評価」の方法が、実際の仕事にも役立ちます。

ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜

成功の定義を導き出すための問いかけリスト(巻末に収録)やサンプルとなる問答例が豊富に揃っています。成功の定義を設定したうえで、その成功の定義を実現するための要素の洗い出しや手段を可視化して、構造的に組み立てていく方法を、規模もテーマも異なるプロジェクト事例から解説しています。

おわりに

いかがでしたしょうか?
タスクが増えてしまうのも深刻な問題ですが、成果物ができてから『思っていたのと違う』という事態は想像しただけで辛い症状です…!

目標に向かってブレずにプロジェクトを進行していくには、まずは成功の定義を改めて考え直してみる必要がありそうです。成功の定義が明確になったプロジェクトは、タスクも整理され、情報の取捨選択もしやすくなるでしょう。

本ブログは全5回の連載で、プロジェクトの問題でよく見られる「〇〇症候群」の解説と、処方箋(おすすめ書籍)をご紹介してまいります。問題解決の糸口を見出すきっかけになれば幸いです。

お楽しみに!

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