PMが板挟みになった時に使える思考とは!?【プロジェクト「あるある」相談室】


こんにちは。一般社団法人日本PMO協会の伊藤大輔です。前回の「プロジェクト・タスク管理ツールを使ってくれない時の対処法」を多くの方にお読みくださり、誠にありがとうございます。

私は現在まで、約380社に対してプロジェクトマネジメントの様々なご支援を行ってきました。今回はその経験から、「プロジェクトマネージャーが板挟みになった時にどうすれば良いのか?」、皆さんのお役に立ちそうな情報をお伝えしていきます。

なぜ「板挟み」になるのか

皆さんが「板挟みになっている!」と思うのは、利害や主張が異なる“複数の人の間に入っているような状況”を指しているのではないでしょうか。

プロジェクトマネジャーやラインマネジャーには、必ず「板挟み」の中でのマネジメントが求められますが、私は「マネジメント(Management)」という言葉を使う時のニュアンスとして最も近い日本語は「やりくり」だと思っています。

つまり、マネジャーは「やりくりをする人」ということです。

プロジェクトマネジャーの皆さんは、「マネジメントができる!」と組織から思われ現在の役割になっています。つまり、板挟みの中でも、「やりくり」ができる人と評価をされて、現在の役割になっているのです。

MoSCoW(モスコウ)で整理する

恐らく皆さんが「板挟み」になっている時は、要求事項を収集している時、そして、それらを要件にしていく時ではないでしょうか。

「要求」は、必要とする、または必要なこととして求めてくることです。「要件」は、成果や成果物に対して必要な条件のことです。

つまり、マネジャーはさまざまな「要求」の中から「要件」を導き出していく必要があります。その時にマネジャーが行うべきことは「優先順位付け」です。

この優先順位付けで役に立つのが「MoSCoW(モスコウ)」の手法です。


※MoSCoWのMoはMuなのでは?と思われる方がいるかもしれませんが、英語の「モスクワ」にちなんで覚えやすくするためMoSCoWになっているようです。

あらゆる要求事項は、まずは表などにまとめ、それぞれの要求者に対しインタビューし、Must(必須)Should(すべきこと)、Could(可能であれば)、Won’t(不要)を整理していきましょう。

この時に大切なのは「プロジェクトの目的」に立ち返ることです。

例えば、自社独自のITシステムをリプレイスする時、経営サイドは「市販のソフトウェアに切り替えてコストを下げたい」が、現場は「現在のITシステムを利用し、現場業務のオペレーションプロセスを維持したい」というような場合です。

市販のソフトウェアを利用することによりコストは下がりますが、必要な機能がなかったりデータの蓄積ができない、しかし、これらをカスタマイズで対応すると初期コストや維持コストが上がるというような状況です。

こういった場合において、プロジェクトマネジャーは要求事項を整理して、プロジェクトの目的を忘れず、MoSCoWで優先順位付けをし、要求を要件に落とし込んでいくことが、「板挟み」に対処するひとつの方法です。

プロジェクト憲章に立ち返る

では、「プロジェクトの目的」とはどこに記載されているものなのでしょうか。

一般的には「プロジェクト憲章」に記載されており、プロジェクト憲章の元となる、あらゆる社内決裁書類(稟議書、経営企画の資料、事業計画書、中期経営計画書、取締役会等の会議資料、等)に記載があります。

プロジェクトを開始する許可のもととなる資料には、そのプロジェクトの目的が明記されているものです。それが「プロジェクトの方向性」になるので、プロジェクトマネジャーは「板挟み」にあったとしても、プロジェクトの目的を忘れず、それに準拠した要求の優先順位付け、ならびに意思決定をしていくことが大切です。

利害関係者の中には、「なんで我々の要求を受け入れてくれないのか!」とおっしゃる方がいるかもしれませんが、プロジェクトマネジャーは冷静に、プロジェクトの目的およびその元となった組織の決定事項を説明し、理解を求めればよいのです。

「ジンテーゼ」をみんなで考える

プロジェクトの目的を伝えても、理解が得られない場合もあるでしょう。そんな時は、利害が衝突している方々とプロジェクトマネジャー全員で、「どうすべきか」検討する必要があります。

ここで役立つのが、ドイツの哲学者ヘーゲルの「弁証法」です。弁証法とは「対立する物事から新しい見識を見いだす」方法です。

弁証法では、テーゼとアンチテーゼのどちらかを採用するのではなく、この二つの相反する意見を統合した第三の新しいアイデア「ジンテーゼ」を生み出すことを説いています。

よくある事例として、営業(販売)側と製造側のプロジェクトでの意見の対立があります。

営業はお客様のために納期を早めに要求したとします。しかし、製造側は責任をもって品質の高い製品を製造したいため、納期を長めに要求したとします。こういう場合、プロジェクトマネジャーが「レフリー」として間に入って考えます。

実際のジンテーゼの事例としては、
・複数の製品を同時に納品するのではなく、2回に分けて納品する。最初の納品は営業の要求を満たす納期に納品し、製造側は1度に製造するロット数が少なくなった分より安定的な製造が可能となるようにする。
・製品の機能を再調整し、本当に必要な機能のみに絞り、営業の要求を満たす納期と、製造側の安定的な品質の担保を実現させる。

このように、テーゼとアンチテーゼを網羅する第三の新しいアイデアをみんなで考えることが大切になってきます。

プロジェクトオーナー(スポンサー)にエスカレーションする

ここまで板挟みになった時の思考手法をお伝えしましたが、プロジェクトの目的に立ち返ったとしても、そして双方の要求を網羅できる新たなアイデアを出そうと努力したとしても、優先順位付けが難しい事象もあります。

先ほどの事例で言えば、市販のソフトウェアを導入することで、確かにITシステムの初期コストや維持コストを抑えることはできます。しかし、現場の業務にソフトウェアが合っておらず、さらにはオペレーションプロセスを変えたとしても作業が非効率になり人件費が上がってしまい、組織トータルで見るとコスト高になってしまいます。

そんな時は、プロジェクトの決裁者であるプロジェクトオーナーに判断をしていただくのも重要です。

プロジェクトマネジャーの中に「自分がなんとかしなくてはいけない!」と誰にも相談しない方がいらっしゃいますが、それが積み重なると、板挟みの中で孤独と負担になり、体調を崩してしまいかねません。

ビジネスとして考えた場合においても、プロジェクトオーナーは、プロジェクトのリソースを提供し、適切なアプトプットを求めているわけです。さらには障害となる事象を極力知り、支援したいと思っているのです。

プロジェクトオーナーに意思決定を求める時に、プロジェクトマネジャーが行うべき重要な事象は、「事実」の情報をしっかりと伝えることです。

先ほどの例だと、

「具体的にどのような利害の衝突があるのか」
「新しいソフトウェアをそのまま導入した際のコスト削減はどれぐらいか」
「現場業務のプロセスを変更したとしても追加作業で発生する人件費の増分はどれぐらいか」
「この人件費増加を最低限にするカスタマイズ追加コストはどれぐらいか」
「このカスタマイズによるスケジュールやリスク等は何があるのか」

など、事実は全て伝えましょう。

まとめ

「板挟み」になっている場合は、まずは冷静にそれぞれの要求を「見える化」することです。次に、プロジェクトの目的に照らし合わせて、MoSCoW手法などで冷静に優先順位付けをすることをおすすめします。さらに優先順位付けは、「プロジェクトの目的」に立ち返っておこなっていきましょう。

利害の衝突に対し、双方の要求を網羅するアイデアを一所懸命考えたとしても解決しない場合は、ひとりで悩まず、プロジェクトオーナーなどに判断いただくことも大切です。

その場合、プロジェクトマネジャーは事実の情報をしっかりと伝えましょう。皆さんの益々のご活躍を心から応援しております!

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プロフィール 伊藤大輔(いとう・だいすけ)

一般社団法人日本PMO協会 代表理事/青山学院大学大学院(MBAプログラム) 非常勤講師/群馬大学 非常勤講師。プロジェクトマネジメント国際資格者(PMP®)、MBA。著書・YouTube・企業研修・セミナーなどを通じて、50,000人以上にプロジェクトマネジメントの素晴らしさを伝えている。ベストセラー著者。

日本PMO協会:https://www.npmo.org/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCFOjnLt9wrDwX7tP3F5hTig
著書:https://www.japan-project-solutions.com/jps-books

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