プロジェクト・タスク管理ツールを使ってくれない【プロジェクト「あるある」相談室】

はじめまして、一般社団法人日本PMO協会 代表理事の伊藤大輔です。私は現在まで、約380社に対してプロジェクトマネジメントの様々なご支援を行ってきました。

今回はその経験から、新しいプロジェクトツールやプロセスを導入しても「なかなか使ってくれない」、「組織に浸透しない」という悩みに対して、皆さんのお役に立ちそうな情報をお伝えしていきます。

新しいツール導入時にぶつかる壁とは?

プロジェクトツールでも、プロジェクトマネジメントプロセスでも、プロジェクト以外のお仕事でも、新しいモノやコトを既存の組織に導入する時は必ず「壁」が立ちはだかります。

それは「導入がスムーズにいかない」、「利用してくれない」などの壁です。

この悩みは皆さんだけではなく、ベテランのプロジェクトマネジャー、そしてビジネスにおいては経営者の方も同じような悩みを抱えています。

重要なことは「なぜ、このような事が起こるのか」、「どう対応していけばいいのか」ということです。さらにその「原因と対策」を知っていれば、気がずっと楽になります。

例えば私生活でもこのような経験はありませんか?

・引っ越した直後、ついつい引っ越す前の家へ帰りそうになる。
・ダイエットしようとジムに通い始めたが、三日坊主になりそう。
・国産車から輸入車に乗り換えたら、ウインカーのレバーが左にあるのに、右のレバーを操作しワイパーが動いてしまう。
・スマホのアプリを整理したけど、あのアプリはどこいったっけ?となる。
などなど

これらが起こる理由は「習慣化」と関係しています。

人は膨大な情報を効率よく処理するために、一連の動作を「パッケージ化」する傾向があると言われています。これが「習慣化」と呼ばれるモノです。お仕事でも同じような「習慣化」が発生しています。組織ともなると、その習慣が「文化」になっている場合もあります。

この「習慣」によって、新しいツールを入れても「前の習慣」から抜け出せずに行動を取ってしまうのです。

導入時にぶつかる壁は人の特性だった?

これから紹介する理論は、米・スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ロジャース教授が提唱した「イノベータ理論」といい、新しい製品やサービスの市場への普及率を表した理論です。

この理論ではイノベーターからラガードに向かって、新製品、サービスが採用され市場に普及することを提唱しました。

この中で、イノベータ―やアーリーアダプターは、新しいモノが好きな特性のグループで、好きなエリアの製品やサービスは早めに採用したいと考えている比較的アグレッシブな層です。

アーリーマジョリティ以降は、上記のイノベーターやアーリーアダプターの層の採用状況を見て、徐々に採用をしていく層であり、アーリーマジョリティからレイトマジョリティ、そしてラガードになるにつれて保守的な傾向があります。

この理論に対して、ジェフリー・ムーア氏が自身の著書で「キャズム理論」というモノを提唱しました。

「イノベータ―理論」のイノベーターからラガードまでのうち、イノベーターとアーリーアダプターは「初期市場」、アーリーマジョリティ以降は「メインストリーム市場」と捉え、初期市場とメインストリーム市場の間には深い溝(キャズム)があることを説きました。

つまり、新製品やサービスにおいては、新しいもの好きのみが採用するのと、大多数の保守的な人が採用するのでは市場が異なり、その間には深い溝があり、その溝を乗り越えなければ、市場全体には普及せず、「流行りもの」で終わってしまうということです。

この理論は、新しいツールやプロセスの導入と近いモノがあり、組織で新ツールに好意的な人は2割未満で8割のユーザが保守的になっている可能性があります。

このように、新しいツールやプロセスの導入時にぶつかる壁は人の特性でもあり、プロジェクトを長年マネジメントしてきた方でも発生しやすい課題なのです。

新しいツールを利用してくれない時の対応方法

新しいツールを利用してくれない理由が、人の特性ということが分かりました。その上で、まず理解しなければいけないのは、習慣化されるまでには時間が掛かるということです。

新しいツールやプロセスが当たり前の「文化」になるまで、私の経験では早くて3か月、長いと6か月かかると考えています。

利用推進・促進を行っていく場合、「利用しない理由」や「利用できない課題」が組織内部から出てくると思います。それらの課題を管理し、一つずつ支援しながらつぶしていくのも大切です。

まずはツールやプロセスの利用推進を根気強く行っていくことが大事ですが、それだけでは難しいこともあると思うので、今回はその他の対処法を3つお伝えします。

協力者と共に導入を進める

ひとりで導入を進めていくのは大変かと思います。先ほどの「キャズム理論」では、初期市場の「イノベータ―」や「アーリーアダプター」のクチコミ等が、「アーリーマジョリティ」以降のメインストリーム市場のユーザーの利用促進に結びつき、キャズムを超えるひとつの要素とされています。つまり、初期市場のユーザは導入者の支援者になりえるということです。

また、ツール導入時には利用目的を関係者全員に共有する必要があります。業務の効率化を目的として導入する場合は、メンバーのワークフローを再確認して不要なプロセスを洗い出すなど、導入前に行うべきことがあります。

ツールやプロセスの導入においても、初期段階で協力的に利用してくれている人を大切にし、その方々を巻き込み、共に導入をしていくことをおすすめします。

スモールスタートで行う

あまりにも機能が多いツールや、複雑なプロセスの導入の場合、すべてを一気に導入しようとすると、ユーザは今までの習慣とあまりにも違いすぎて拒絶反応を示すかもしれません。

もしそのような可能性が高い場合は、一部の機能のみの利用開始や、一部のプロセスのみの変更など、「スモールスタート」で始め、徐々に利用機能やプロセスを追加し、徐々に文化と習慣を変えることも一つの方法です。

全ての機能を使ってもらうとすると失敗しますが、一部の機能を使って業務が楽になる体験をすれば、自然と活用されるようになるので、スモールスタートで始めることをお勧めします。

公式なパワーを持つ人に支援を求める

「キャズム理論」では、「アーリーマジョリティ」に対するアプローチが、メインストリーム市場に対する最初のアプローチとして重要とされています。

この時、インフルエンサー等による情報発信が大切であるとされています。つまり、パワーを持つ人からの広報・広告が必要ということです。

組織内における新しいツールやプロセスの変更および導入に際しては、組織で公式なパワーを持つ人、すなわち経営者や事業責任者、決裁者などから全組織に対して、何のためにやるのか、なぜそれが必要なのかを「公式」に発信してもらうことも大切です。

皆さんがもし、経営者や事業責任者であれば、この「公式」の発信を、ユーザが「習慣化」するまで続けてみることをお勧めします。

まとめ

まずは、新しいツールやプロセスの導入で悩まれている方は、「自分だけではない」、「人の特性としてこのようなことは起きる」と考え、気を楽にしましょう。

そして、根気強く、戦略的に導入を進めれば、いずれ文化、習慣となってきます。そのために、まずは協力者を巻き込んでスモールスタートで始めてみてください。キャズム(深い溝)に落ちないように(あきらめないように)、コツコツと進めていきましょう!

プロフィール 伊藤大輔(いとう・だいすけ)

一般社団法人日本PMO協会 代表理事/青山学院大学大学院(MBAプログラム) 非常勤講師/群馬大学 非常勤講師。プロジェクトマネジメント国際資格者(PMP®)、MBA。著書・YouTube・企業研修・セミナーなどを通じて、50,000人以上にプロジェクトマネジメントの素晴らしさを伝えている。ベストセラー著者。

日本PMO協会:https://www.npmo.org/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCFOjnLt9wrDwX7tP3F5hTig
著書:https://www.japan-project-solutions.com/jps-books

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