Backlog開発チームの藤田です。皆さんは子どもの頃、夏休みの宿題にどんなふうに取り組んでいたでしょうか?
- 夏休みの初めに一気に終わらせてしまう
- 毎日こつこつ進める
- 夏休みの終わり近くになって必死でやる
- 終わらせない
などいろんなタイプがありますね。
私は「初めに一気に終わらせる」タイプでした。毎日こつこつ進めるとかは無理と自分でわかっていたので、先にやってしまって安心したかったのだと思います。「終わらせない」を選択できるほど肝が据わってもいませんでした。
本記事は、普段私たちが業務で使っているプロジェクト管理の手法を夏休みの宿題に応用したお話です。小学2年生になった娘と一緒に「夏休みの宿題完遂」を目的に、バーンダウンチャートなどを活用して、プロジェクトをどのように進めたのかお届けします。
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目次
夏休みの宿題をマネジメントする事の発端
うちの子にかぎって
私には小学校6年生と2年生の娘がいます。上の娘は、私に似ず「毎日こつこつ進める」ことができる子でした。特になにか教えたわけではないのですが、1年生の頃から、マイペースでこつこつ進めて、夏休みの中盤ぐらいには終わるという、私からすれば驚きの宿題進行方法を毎年やっています。
下の娘は去年小学校に上がりました。夏休みは何事もなく済み、冬休みつまり今年の正月、私はいつものように適当に放置して丸付けやサインのために娘が提出してくるのを待っていたところ
終わってないという事態に。
1年生の冬休みですので、大量と言ってもまあそれほど絶望的な量でもなく、1日中かけてどうにか終わらせました。本人はともかく、私はいたく反省しました。
夏休みの宿題完遂プロジェクト
我々が開発するBacklogは「プロジェクト管理ツール」と銘打っています。
※ 本当は「管理」という、「上司が部下の行動を監視して制限する」みたいなニュアンスを感じさせる言葉を使うのは本意ではないのですが、英語の「プロジェクトマネジメント」がそう日本語訳されてしまっているので仕方ないのです。
一般的に、プロジェクトとは「何か決まった成果物をつくるための、期限がある活動」を言います。
つまり、長期休みの宿題を完遂するという営みも、れっきとしたプロジェクトです。プロジェクト管理ツールを提供する開発者が子どもの夏休みの宿題を完遂させられないなど、あってはならないことです!
今年の夏、私は2年生になった下の娘と一緒に、夏休みの宿題完遂プロジェクトを発足させることにしました。
キックオフミーティング
プロジェクトの目的
夏休み最初の土曜日、娘と2人で話し合いました。
「冬休みのこと覚えてる?」
「おぼえてない」
「宿題、最後の日まで終わってなくて大変だったでしょ。お父さんあれはつらかった」
「そやったっけ?」
うちの娘、いい加減なところが私に似てるので、その程度の意識しかないことは織り込み済みです。
「今年の夏休みの宿題はきちんと終わらせて、お父さんが最後の日に大変にならないようにしよう」
「わかったー」
PM(私)と担当者(娘)で、目的を共有しました。
スコープ
福岡市の小学校の自由研究は福岡県内などでいろいろ開かれるコンクールにどれでも良いから出品するというものです。
「どれに出そうか?」
「お習字教室で先生が教えてくれるけん、お習字やると。」
「それじゃ1日で終わって楽しくないけん、他もなんかやろうよ」
「じゃあ、絵もかくー」
話し合いによりプロジェクトのスコープを定義しました。
タスク完了条件
宿題の内容が書かれたプリントと問題集など、今ある情報をすべて並べてもらい、細かくチェックします。
「問題集の丸付けはどうするって先生言ってた?」
「家の人にやってもらうって」
タスク完了条件の確認OK。
リソースの確認
「買うものは4つ切り画用紙くらいかな?」
「お習字の紙!」
「あーそっか、習字教室では硬筆習ってるから毛筆の道具持ってないんだった。どうせ必要になるし一通り買うか」
「やった」
必要なリソースの確認と共有、済。
タスクの見積もりとバーンダウンチャート
小学2年生の担当者に「このタスクは何日かかる?」と1つひとつ考えさせてもまともな見積もりができるはずがありません。また、PMが「このタスクはいつまでにやりなさい」と指示してもどうせその通りできないことはわかっています。
そこで、見積もりをするにあたって、このようなチャートをGoogle Spread Sheetで作り、
各タスクを「何日かかるか」といった絶対的な時間ではなく、「どの程度大変か」という観点で評価して、「このタスクを終わらせたらマス目を何マス塗りつぶして良い」という相対的な量として見積もることにしました。
「算数とか国語の問題解くのはすぐ終わるけん、1ページやって丸付けまで終わったら、このマスを1つ塗りつぶすことにしよう」
「うん」
「ミニトマトのお世話は何するの?」
「水やる」
「観察記録ってのは?」
「この紙に、絵をかいたりする」
「んー、そしたら大変やけん、観察記録が終わったら10マス塗って良いことにしよう」
「すごい」
「コンクールに出す花の絵は四つ切りだから、かなり大きいね」
「そしたら10マス?」
「いやいや、すごい大きい絵だから20マス塗って良いよ」
「やった♪」
うちの娘ちょろい。
ここで1つひとつのタスクにかかる時間を正確に見積もることは全く重要ではなく、粗くでも全タスクに同じ単位の量をつけることによって、足し算ができるようになることが重要です。
娘の宿題の合計の量は154になりました。
表の横軸を夏休み最終日までの日数、縦軸を154マスとして対角線を引きます。これがバーンダウンチャートです。
印刷してリビングの壁に貼り付けました。
プロジェクト進行
スプリントレビュー
夕食後、その日の進捗具合を確認することにしました。すでに夏休みに入って数日経っていたので、それまでに進めていた分と合わせて35マスの進捗でした。
バーンダウンチャートのその日の列を上から35マス塗りつぶさせてあげると、娘は自分が進めた宿題のページ数とチャートのマス目を塗りつぶすことの関連を理解したようでした。
「明日の日曜日は家族で出かけるから何も出来ないけど、お父さんに丸付けしてもらったらこのマスを塗りつぶすっていうのを毎晩やろう」
「うんー」
プロジェクトの会議体(スプリントの期間やミーティングの頻度)について、合意を形成しました。
自律的な進行 レベル1
平日に私が会社から帰ると、娘が「今日は10ページ進んだ」と主張してくるようになりました。自律性が出てきていると感じましたが、「よくやったねー、偉いねー」と殊更に褒めることはせず「オッケー👍 」と返すにとどめます。
※褒められることではなくプロジェクトの進行そのものが心理的報酬になったら良いなーというもくろみで。普段から大げさに褒めるみたいなの、やってないですし。
一方、丸付けが終わってないのに自分で勝手にマスを塗りつぶしていたので、それはダメだと、PMの目の前以外でチャートに手を加えてはいけないというルールを再確認しました。
自律的な進行 レベル2
数日経ってチャートに実績線ができてきたので、
「この斜めの線に、塗りつぶしてる線が追いつかれたらヤバいんだよ」
と指導したところ、娘が宿題を全くせず、友達と1日中遊ぶ日が出てきました。妻が
「宿題はどうしたの」
と聞くと、
「線がここの近くになるまでやらんで良いとー」
と答えたそうです。
バーンダウンチャートの実績線が理想線より下にある場合、プロジェクトは予定以上に進行しているので、確かに休んでいても問題ありません。彼女は「休んでいられる期間」を理解して、自律的に進捗速度をコントロールできるようになっていたのです。
素晴らしいと思いました。うちの娘の理解力が、ではなく、プロジェクトの全体サイズを見積もって、こうして斜め線を引くだけで、「今は休んでいて良い」と小学2年生にでもわかるようになることがです。仕事でこれができてない大人がどれだけ多いでしょうか。バーンダウンチャート考えた人、賢い。
※ 我が家では子どもにPCを使わせていないので紙でやりましたが、Backlogでは課題に「マイルストーン」を設定すると各課題の「予定時間」を反映したバーンダウンチャートが自動的に生成、更新されますので是非ご活用ください。
もう1人のステークホルダーの妻にとっても、壁に貼ってあるバーンダウンチャートが毎日更新されることでプロジェクトの透明性が確保されており、毎日宿題をやれと急かす必要がありません。
怒らなくて良い、絶えず気にかけていなくても安全、というのは本当に精神衛生に良いですよね。
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謎のモチベーション
コンクールに出品するための絵を4つ切り画用紙に描き始めた娘がいつになく真剣に色を塗っているので
「がんばってるね」
と声をかけたら
「もうすぐななめ線においつかれるけん。でも絵おわったら20マスぬれるけんね!」
と返ってきました。すごい。なにか謎のモチベーションになっている。
なんにせよ、集中しているのは良いことなので放っておいたら、その日の夜、
「ここまでできた」
と途中の絵を見せてくれました。
壁に貼ってあるバーンダウンチャートをチラチラ見ていたのは、おそらく少しでも塗りつぶさせてくれないかと期待していたのでしょう。しかしコンクール出品可能という要件を満たしていないので1マスも進みません。
「まだ時間あるけん、ゆっくりやりな。ちょっとぐらい斜め線に追いつかれてもすぐ取り返せるけん大丈夫」
と伝え、ルールは厳密に適用されることを強調しました。
不確定要素、突発的な事故
夏休み序盤、非常に暑い日が続いていた時期がありました。2日間ほど娘がミニトマトに水をやるのを忘れたため、ミニトマトは枯れてしまいました。娘も
「もう10マスぬれないとー?」
と不安そうにしていました。
こういうことに対処するのはPMの仕事です。
ミニトマトが枯れた場合の観察日記の書き方について、特に学校側からの指示もなさそうでしたので、ひとまずここまでに収穫できた実の数と、枯れてしまった日付を記録させました。
「後で観察記録を書くときに、トマトはこの日に枯れてしまったと正直に書けば良いけんね」
とPMの責任のもと明確に指示しました。担当者の不安はひとまず解消されたようでした。
順調に進行
担当者が自律的にタスク進行できていれば、PMの仕事は特にありません。毎日進捗を確認し、進捗があればレビューしてチャートを埋めるだけで楽なものです。
「えのぐがないとー。」
といった問題の報告にも軽やかに
「明日お母さんにお願いして買ってきてもらおう、(妻に)てわけでお願いー」
「はーい」
と関係者に連絡をとり最速で解決します。
細かいことですが、進捗確認の会話として
「宿題やった?」
よりも
「今日はチャート埋められそう?」
の方が、子どもの心理的負担は小さいようでした。これもやる前にはわからなかった発見でした。
そして気づけば
見事に理想線の左下だけで進行する順調そのもののプロジェクトがそこにはありました。
無事完了、学びとまとめ
夏休み残り4日となった日、余裕を持って始業式に持参するものを確認させて私たちのプロジェクトは完了しました。2人でハイタッチです。
皆様お気づきの通り、小学生の夏休みの宿題というのはそれだけ見れば難易度の高いプロジェクトではありません。
ただ担当者が誘惑に負けたり、気分が乗らなかったり、そもそもやる気がなかったりして失敗するものです。不確定要素や突発的な割り込みが多く、難易度も高い大人の仕事のプロジェクトとは多くの部分で異なります。
しかし、いくつかの点で大人のプロジェクトにも通じる学びや発見がありました。
相対量での見積もりの有用性
今回使った「相対量での見積もり」と「バーンダウンチャート」は、本質的には、
- 「仕事の全体量」を1つの数値として規定する
- 「今まで終わった量/全体量」をわかりやすく表示する
ということです。
大人のプロジェクトが上手くいかない要因は色々ありますが、「仕事の全体量を規定していない」というパターンが存外多いのではないでしょうか。全体量がわからないから、なんとなくでしか進捗を表現できない。担当者が終わったつもりでも漏れている。漏れていないか確認するために多大なコストがかかる。
全体量が1つの数値になっていれば、そのうちどれだけ終わったかという進捗度も同じ方法で1つの数値になります。これは誰にとってもわかりやすい指標なので、遅れの早期発見が可能になり、対処も容易になります。
バーンダウンチャートを書き始める時期
子どもの宿題はこれほどすんなりきれいに進行するのに、普段のプロジェクトはこんなにきれいに進まない理由について考えてみると、やはり不確定要素の多さが挙げられると思います。
大人のプロジェクトでは、始める前にはそのタスクがどれほど大変なのかまったくわからず、粗くすら見積もれない場合があります。結果が出るかわからない基礎研究や調査といったタスクでそうなりがちです。
その場合、そのようなタスクが少し見通しが立って粗く見積もれる段階になるまでは、全体量を規定しようとしない、つまりバーンダウンチャートを書き始めないほうが良いのだと思います。
逆に、そのような見通しが立たない状態であるタスクは制限時間を決めるなどして優先して取り組み、できるだけ早く見通しが立つ状態まで持って行く必要があるのでしょう。
担当者のモチベーション
今回、バーンダウンチャートのマスを埋めること自体が(私のもくろみどおり)娘のモチベーションになっていきました。これは彼女が単純な子どもというのもありますが、それだけではないと思います。
娘はチャートの斜め線(理想線)と実績線のギャップを「安心して遊ぶ」という形で利用し、次のタスクにとりかかる時期を自分で決めていました。ダニエル・ピンクが「モチベーション3.0」で書いているように、自律性が許されている状況はモチベーションに良い影響を与えます。
そして両親からうるさく「宿題やりなさい」と言われないことで、宿題に対してネガティブな感情を持つ機会が最小でした。
さらに、着実にプロジェクトが進行していることがはっきり実感できるチャートが常に見えるところに貼ってあったのも、やはりモチベーションに対してプラスの影響を与えたはずです。
これらの道具立ては大人にも十分に転用可能ではないでしょうか。
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さいごに
最初は自分が嫌な思いをしたくないだけで始めたプロジェクトマネジメントでしたが、本人も楽しそうにやっていましたし、私も妻も安心して放っておくことができ、誰にとっても快適な夏休みになりました。
プロジェクトマネジメントのあるべき姿というのは、ギチギチと細かく管理して余裕を削っていくのではなく、担当者1人ひとりが自律的にモチベーション高くタスクに取り組めるよう環境を整え関係者みんなを笑顔にすることなんだ、という思いを改めて強くしました。
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