モチベーションはどうしたら上がる?東京都立産業技術大学院大学三好きよみ研究室の4名によるプロジェクト

〜“このチームで一緒に仕事できてよかった”を生み出す「プロジェクト」を応援するGood Project Awardの舞台裏ストーリー〜


Backlogユーザーのみなさま、こんにちは!

2023年12月9日土曜日、Backlog World 2023「Re:Boot-未来への帰還」が開催されました。イベントプログラムの中で、今回で4回目となる 2023年の最も素晴らしいプロジェクトを表彰する「Good Project Award 2023」も同時開催。全国から集まったプロジェクトの中でも先行を勝ち抜いた3チームがピッチバトルを行いました。

今回、惜しくも最終ピッチコンテストには選ばれなかったものの、素晴らしい取り組みを見せてくれた、東京都立産業技術大学院大学の「三好きよみ研究室」のプロジェクトチームにお話を伺いました。

「三好きよみ研究室」には、プロジェクトマネジメントに関心のある、多様なバックグラウンドを持つ社会人を中心としたメンバーが集まり、プロジェクトベースドラーニング(PBL)型教育による活動を行っています。2023年4月~2024年2月までの期間で取り組まれた「ワークモチベーションの向上を目指すプロジェクト」について、プロジェクトメンバーの片岡さんにお話を伺いました。

プロジェクト名 プロジェクト活動におけるモチベーションコントロールを支援するためのソリューションの提案
プロジェクトメンバー 研究室に所属するプロジェクトメンバー4名
プロジェクト概要
  • プロジェクトメンバーのモチベーション向上を通してジョブ・パフォーマンスを高める方法についての研究
  • モチベーションコントロールを支援するためのソリューションの開発
成果
  • プロジェクトチームで開発したモチベーションに関するワークショップの実施
利用しているヌーラボサービス プロジェクト・タスク管理ツール「Backlog
チームで論文執筆やワークショップ開発などを実施するプロジェクト推進のためのタスク管理をBacklogで実施している

 

プロジェクトメンバーの片岡さん(左から2番目)を含む、プロジェクトメンバー4名

多様なメンバーが集まりプロジェクトを推進!インタビューで見えてきた「モチベーション」とは?

— 今回のプロジェクト発足の背景について教えてください。

片岡さん:
「三好きよみ研究室」には、自動車部品メーカー、IT企業、保険会社、SIerと、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。所属している会社の規模や業種も異なりますし、年齢も20代から40代とさまざまです。プロジェクトマネジメントの専門性を高めたい人や、エンジニア、プログラマーとして上流工程に携わることを目指している人もいます。それぞれが学ぶ目的は異なりますが、共通しているのは、プロジェクトマネジメントへの興味関心を抱き、仕事に活かしていきたいと考えていることです。

東京都立産業技術大学院大学では、三好きよみ研究室のみならず校内全域でBacklogが利用できるようになっています。私たちのプロジェクトは論文の執筆やワークショップの開発におけるタスクの管理にBacklogを用いています。

— 多様なメンバーが集まるチームにおいて、どのようにして研究テーマの設定を行ったのですか。

片岡さん:
プロジェクトベースドラーニングを行う上で、初めに「モチベーション」についてみんなが興味のあることや研究したいことを持ち寄りました。「モチベーション」といっても、「モチベーションアップの手法」に興味がある人もいれば「社員の離職を防ぐこと」について研究したい人もいて、みんなの興味がバラけていたことから、研究テーマを決めるまでに1カ月ほど時間を要しました。

4月に発足したプロジェクトでしたが、4月8日の時点でテーマが決まらなかったので、まずは、5月に投稿する論文の発表を目指すことにしました。そこで、論文のメイン執筆者であるプロジェクトベースドラーニングメンバーの斎藤さんのテーマに合わせて、みんなで「モチベーション」についてインタビューを実施しました。インタビュー後は、ゴールデンウィークをフル活用して文字起こしを行い内容を分析して論文を書きました。結果として、その論文で賞をいただくことができました。

【論文】
「プロジェクトメンバーの職務パフォーマンスに影響を及ぼす要因の研究」
https://aiit.ac.jp/NEWS/notice/20230718.html
https://www.ddhr.jp/wp-content/uploads/2023/12/DDHR0201_04.pdf

 

— インタビューはどのように行ったのですか。

片岡さん:
まずは、プロジェクトメンバーおよび研究室メンバー合計7人の中でお互いにインタビューを行いました。2回目以降は学内だけではなく学外の方も含めて19名、3回目は11名、延べ40名ほどの方にインタビューを行いました。

インタビューを行った結果、わかったことがありました。それは、「モチベーションの源泉は人によって異なる」ということです。ある人にとっては、モチベーションを上げる要素が、他の人にとっては、モチベーションを下げる要素にもなります。そのため、自分のモチベーションを基準にして、相手を判断することはできません。

優秀であればモチベーションが高いわけではないですし、モチベーションが高ければジョブ・パフォーマンスが向上するわけでもありません。プロジェクトチームの中でモチベーションが突出した人がいることでチーム全体のモチベーションが下がることもあります。モチベーションは、昨日あっても今日落ちていることもあるんです。

大事なのは、自分のモチベーションを把握し、上手くコントロールしていくことによってチーム全体のモチベーションの均衡を図ることだとわかりました。

 

「モチベーションの源泉」を可視化し、共有することで、得られる気付きがある

— インタビュー結果をもとに、プロジェクトをどのように進められたのですか。

片岡さん:
インタビューの結果をもとに、「プロジェクトメンバーのモチベーション源泉を把握し、チームメンバー同士の相互理解を深め、プロジェクトのジョブ・パフォーマンスを高める手助けとなるソリューションの提供」について、プロジェクトを進めることにしました。

最初は、ゲーミフィケーションをベースにしたソリューションの提供を目指しました。しかし、2カ月間ゲーム作りに取り組んだのですが、上手くいかずに断念しました。作ろうとしていたゲームは、様々なパーソナリティを持った人物とモチベーションの変動要因となるイベントを用意し、個人によりモチベーションが異なることを体感してもらうゲームでした。人物カードを引いてなりきる人物を決め、イベントカードに記載されている場面に遭遇した際にどういう行動をとるか、その行動によりどうモチベーションが変化するかを点数化して、モチベーションの変化をプレイヤーみんなで考える、という内容でゲーム設計を進めました。

普段はゲームをしないメンバーたちなので、最初はゲームのルールを組み立てるまでに時間がかかりました。また、「モチベーション」という定性面を定量化することの難しさに直面しました。実際にゲームをプレイしてみると、「なぜその行動を選択したことがこの点数に繋がったのか」ばかりが論点となり、「モチベーションの変化を考える」ことにピントを合わせることが難しい結果となってしまいました。

ゲーム作りから方向転換を図り、改めて下記の3つの目的を設定し、ワークショップ型のソリューションを開発する形でプロジェクトを進めることにしました。

【3つの目的】

1.プロジェクトメンバーのモチベーション
2.チームメンバー同士のモチベーション源泉を把握すること
3.プロジェクトのジョブ・パフォーマンスを高める手助けをすること

— 3つの目的達成を目指すワークショップ作りを、どのように進めていったのですか。

片岡さん:
まずは、既存のツールである「MSQ診断簡易版*」や「Moving Motivators**」を用いて、各々が自分のモチベーションを把握しました。意外と自分のモチベーターについて知っている人は少ないのではないでしょうか。

「MSQ診断簡易版」によって自身のモチベーションの状態を把握することができます。「Moving Motivators」では、自身とメンバーのモチベーションの源泉を可視化・言語化し、第三者に共有することで意見や気づきを得ることができます。また逆に、他者のモチベーターを見ることで、学びを得ることもできます。各々のモチベーション源泉について把握したことで、プロジェクトマネジャーは「価値観の押し付けを行ってはいけない」ということも体感することができます。

このように、信頼性が担保されている既存ツールを活かして、個々のメンバーのモチベーションを把握した上で、プロジェクトのジョブ・パフォーマンスの向上を目指せるワークショップ作りを目指すことにしました。

* やる気を数値化する「モチベーション診断ツール」 https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/0806/25/news137_2.html

** Jurgen Appelo, “Managing for Happiness: Games, Tools, and Practices to Motivate Any Team”, Wiley, 2016.​​
(寳田雅文訳『マネージング・フォー・ハピネスーチームのやる気を引き出すゲーム、ツール、プラクティス』,明石書店,2022年)

 

社外のプロジェクトに参加することで得られた、新鮮な経験と気付き

— プロジェクトを推進する上で、苦労された点について教えてください。

片岡さん:
プロジェクトベースドラーニング活動を面倒に感じたことがあります。それは、役割が決まっていないところからプロジェクトがスタートすることです。私は他のプロジェクトベースドラーニングメンバーよりマネジメント経験がある分、アドバイスのようなことを言ってしまったりするんです。でも、我々は上下関係がないメンバー同士であり、言い過ぎるのもよくないかなと、声かけを躊躇する場面もありました。「あなたのミッションはこれだ!」と会社から役割や目標を明確に決めてもらえていることや、役職や役割があることって、意外とありがたいものだなと思いました(笑)

— プロジェクトに取り組んでみて、感じられたことや気付きがあれば教えてください。

片岡さん:
私は、会社の仕事に対してより感謝するようになりました。プロジェクトベースドラーニングには、年代もバックグラウンドも目的もまったく違うメンバーが集まっています。例えば、私はプロジェクトベースドラーニングメンバーの鳥海さんや田中さんとは年齢も離れているので、会社であれば上司と部下のような感じもします。そのような環境において、年齢差を超えてフラットに関わりを持てたことはよかったです。

また、ワークショップの中でインタビューを行ったのですが、会社の同僚間でモチベーションを共有することや、新しい取り組みを行うことに抵抗がある人も、一定数いることがわかりました。自身のモチベーションを職場の中で言える環境という時点で、オープンな社風であるところが多いように感じています。モチベーションが上がるような会社は、そもそもモチベーションを社内で共有できる関係性があるんです。「自身のモチベーションを共有すること」「モチベーションを共有できる関係性作り」どっちが先なんだという話になるんです(笑)

他のメンバーからは、このような声もありました。

プロジェクトの進め方の型を学ぶことができた。新規事業のアプリケーション開発に携わっており、型通りには進まないため、まだ学んだことを活かしきれていない。
異なる職種の人たちとの新鮮な経験を得ることができた。社内の会話では、使う用語が限られるため、異なるプロジェクトに身を置くことで、人に説明する際に何を説明すれば良いのか、どのように説明すれば良いのかを会社の仕事以上に考えた。
言葉の定義にこだわるようになった。職場に集まる同質性の高いメンバーでも、「これ」の定義が異なる。その現象を俯瞰して見ることができるようになった。言葉の定義を合わせていくことを提案できるようになったことは、仕事で活かしていける。
モチベーションの低い後輩に対してどう対応するか、モチベーターとしてこのプロジェクトの経験を活かすことができている。

私たちのプロジェクトチームは3月で卒業となりますが、それぞれがまた仕事に戻っていきます。このプロジェクトチームで学んだことを今後の仕事に活かしていきたいと考えています。

— 片岡さん、ありがとうございました。

編集後記

『“このチームで一緒に仕事できてよかった”を世界中に生み出していく。』をブランドメッセージに掲げるヌーラボとしては、仕事におけるモチベーションの研究は大変興味深い分野です。この研究を通じて、ヌーラボの開発したボードゲーム「プロジェクトテーマパーク」にご興味をお持ちいただいたとのことでした。ヌーラボとしても、引き続き今後も働く人のモチベーションに注目していきたいと考えています!

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