2025年10月17日、品川インターシティホールにて「Nulab Conference 2025 ~ DESIGN YOUR TEAMWORK ~」を開催いたしました。本記事では、株式会社クロスリバー代表取締役社長、越川 慎司氏による招待講演の模様をお届けします。
815社・17万人の働き方を分析した越川氏。その膨大なデータから導き出された「成果を出し続けるチーム」の秘訣は、意外なところにありました。感覚論や精神論ではない、ファクトにもとづいた「再現性の高い」チームマネジメント術を、さっそくレポートします!
目次
トップ5%リーダーの驚くべき習慣
越川氏の講演は、少し変わった問いかけから始まりました。
「さて皆さん、クイズです。成果を出し続けているトップ5%のリーダーは、次のうち、どれが大きいでしょうか?」
1.声
2.拍手
3.態度
4.うなずき
会場の多くが迷いながら手を挙げる中、越川氏が示した答えは、意外にも「4. うなずき」でした。
分析によって、トップ5%のリーダーは4.5cm〜6.0cmと、一般人より深くうなずくことが判明したそうです。「これを調べた我々がすごくないですか!?」と越川氏が言うと、会場は笑いに包まれました。
株式会社クロスリバー
代表取締役社長
越川 慎司 氏
この「うなずき」が象徴するのは、相手への関心です。
いま日本で働く20代・30代 23,000人への調査で、上司に言われて最もモチベーションが下がる言葉は「最近どう?」でした。何について聞かれているかさっぱり分からず、「この上司は自分に興味がなくて、適当に声をかけているんだな」と感じさせてしまうからです。
人は、自分に関心を持ってくれていると感じることで、モチベーションが湧きます。深い「うなずき」は、「話をしっかり聞いてくれている」「同意してくれている」分かりやすいサインなのです。
興味を持っていることを伝えるために、大事なことは「返報性の原理」だと越川氏は続けます。返報性の原理とは、受けた行為に対して、同様の行為で返そうとする心理的な傾向のことです。
「気さくに質問したつもりでも、『土日、何してた?』では、相手は警戒してしまいます。自分をよく見せようとして、本音は話してくれないでしょう。『いやぁ、土日はテレビでサッカー見てばっかりで潰しちゃったよ。そっちは?』と、腹を割って聞けば、相手も『あ、自分もずっと漫画読んでました』と答えてくれるわけです」
チームのSOSを見逃さない魔法の言葉
続いて、第二問です。
「成果を出しているチームの声かけとして、最も多いのはどれでしょう?」
- 困っていない?
- 元気ですか?
- 今ちょっといいですか?
- 大丈夫ですか?
今度は「1. 困っていない?」に多くの手が挙がりました。ですが、正解は「3. 今ちょっといいですか?」
ビジネスパーソンはだいたい常に忙しいもの。「ちょっといい時間」なんてほとんどありません。正直なところ、言われたら面倒な言葉だと感じるのではないでしょうか。しかし、越川氏はバッサリと続けます。
「たとえどれだけ忙しくても、成果を出し続けているチームの答えは、『もちろん』それだけです。『2時間後でもいい?』『自分の代わりに山田さんでもいい?』と続けるのは構いません。いずれにせよ、『忙しいからちょっと無理』など言われたら、声がかからなくなります」
越川氏によれば、これは、チームの健全性を測る重要なバロメーターです。 トラブル対処の原則として、何か問題が起きたとき、その兆候(煙)に2時間以内に気づいて対応できれば、大きな炎上を防ぐことができます。しかし、相手が「忙しそう」「話しかけづらい」というオーラを出していると、声をかけることをためらい、問題が大きくなってから発覚することになってしまうのです。
さらに、衝撃的な分析結果が示されました。
- トップ5%のリーダー
1週間に、平均4.5回「今、ちょっといいですか?」と声をかけられている - 下位20%のリーダー
1週間に、わずか平均0.25回しか声をかけられていない
では、どうすれば、「今ちょっといいですか?」と言われやすくなるのでしょうか? それは、小さな行動の積み重ねだと越川氏は言います。口角を少し上げる。コーヒーを持って職場をゆっくり歩く。そんな「話しかけてもいいですよ」というサインを発信し続けることが、チームを救うのです。
イノベーションは偶発的な会話から生まれる
講演が佳境に入ったところで、「近年、イノベーションは単一部署内では起きないことが分かってきました」と越川氏は語ります。
イノベーションを生み出したプロジェクトについて、「プロジェクトに関わった人数×メンバーの多様性」の二軸で調査したところ、次のような事実が判明したそうです。
「10年前は、エースを巻き込みさえすれば利益率の高いプロジェクトを生み出すことができました。しかし2024年のデータでは、他部門のメンバー比率が50%〜60%に達しないと、イノベーションが起きにくいことが分かっています。社会課題や顧客の要望が複雑すぎ、多様すぎて、一部門じゃ無理になってきているんです」
では、どうすれば部門の垣根を越えた「共創」が生まれるのでしょうか? その答えの一つは、リーダーが職場をあちこち、ふらふらと歩くこと。優秀なリーダーは、そうでないリーダーに比べ、職場内を歩く歩数が25%〜30%も多いという結果が出たそうです。
会議室というあらたまった場ではなく、自販機の前や廊下での立ち話といった、偶発的な「会話」こそが、新しいアイデアの源泉となると越川氏は強調します。
「こうした検証に8年半かけてきました。イノベーションは、異質な要素の掛け合わせで生まれます。そしてそれは、会議ではなく『会話』から生まれるのです」
働きがいの源泉は「承認」「達成」「自由」の3要素
「残業はするな。成果は出せ」という、困難な要求の時代に生きることになりました。胸の内に、不平不満が多く溜まっているかもしれません。しかし、従業員満足度調査で、不平不満を聞き出し、それを叶えていったとしても、満足度は向上しないという興味深い結果が出ているそうです。
「『働きがい』や『幸福』はプラスの感情ですから、マイナスをゼロにしても、その感情は生まれないんです」
「働きがい」を持つ社員は、時間生産性が31%高く、創造性が2.8倍高く、欠勤率が41%低く、離職率が59%低い、ということが分かっています。では、その働きがいとは何でしょうか? 17.3万人を対象にクロスリバー社が行った調査では、その答えは大きく3つの要素に集約されました。
- 承認
お客様や上司、同僚から「ありがとう」と感謝されたり、必要とされていると感じたとき - 達成
目標を達成したり、できなかったことができるようになったとき - 自由
自分のやり方で仕事に没頭できたり、裁量を与えられたとき
「皆さんのチームメンバーには、『承認』で働きがいを感じる人もいれば、『自由』で働きがいを感じる人もいます。これを理解することが、多様性を理解するということです」
そしてもちろん、「君の働きがいは何?」といきなり聞いても、本音は返ってきません。返報性の原理を思い出してください。まずは会話の中で、あなたの働きがいを伝えることが大切です。
今すぐムダをなくし、対話の時間を生み出す「フィードフォワード」
「『会話が大事と言われても、1on1する時間なんてないよ……』という人は、今すぐ、『よかれと思ってやってる意味のないこと』を止めましょう」と、越川氏。調査によると、働く時間の39%が社内会議、12%が資料作成、8%がメール処理に費やされています。とくに日本では、上司や顧客を気遣って、パワポによる資料作成が長くなる傾向にあるそうです。しかし残念ながら、その手間暇をかけた資料は実際には読み飛ばされているといいます。
越川氏が強く推奨するのは、「フィードフォワード(これからどうすべきか)」という考え方です。たとえば、資料を進捗20%の草案段階で関係者に意見を求めると、資料の差し戻しが74%も減少(20代では89%減少)し、商談成立率も向上するという、驚くべき結果が出ています。
「草案なんか、手書きでいいんです。ちなみに今日の私の資料は、すべてAIが作っています」
講演の最後にそう明かし、会場を驚かせた越川氏。テクノロジーが進化しても、それを活かすのは常に「人」であり、成果を生むのはいつだって「行動」です。
「私は約束を守り、時間ぴったりに講演を終えました。次は皆さんの番です。今日、聞いたことの中から、たった一つだけでも、行動を変えていってください」
トップ5%のリーダーの習慣は、決して特別な才能を必要とするものではありませんでした。 少し深くうなずいてみる。職場をゆっくり歩いてみる。「今、ちょっといいですか?」と気軽に言われるよう、少しだけ笑顔を心がけてみる。
些細なことが、あなたのチームを大きく変えるきっかけになるはずです。
Nulab Conference 2025レポート
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