
横浜の海辺で開催されたプロジェクトマネジメントの祭典、Backlog World 2025。今年はやはり、「AI活用」に大きな注目が集まりました。そこで今回は、ヌーラボのエバンジェリスト・河野 千里のセッション「AIに任せたいなら、まずBacklogに書こう!」をレポートします。
Backlogの最新AI機能によって、どれだけ私たちは“楽しく”、“易しく”仕事ができるようになるのでしょうか?そして、AIを使いこなすために、私たちが今から築くべき「記録の文化」とは何でしょうか?詳細をお届けします。
目次
登壇者紹介
河野 千里
株式会社ヌーラボ
システム開発の現場で顧客課題の解決に取り組み、チームをより良く機能させるためにBacklogやCacooを活用してきた。ユーザーとしての試行錯誤を糧に視野を広げ、 2025年4月に株式会社ヌーラボにエバンジェリストとしてJOIN。現場でのリアルな経験をもとに「チームワークマネジメント」をベースとしたチームでの協働をもっと心地よく、楽しくするためのヒントや工夫を伝えている。
「チームワークマネジメント」に必要な情報は?
「はじめに質問です。プロジェクトマネジメントをする中で、いろいろな『作業』に時間を取られていませんか?」
たとえば、メンバーの稼働状況を調べる。月次の作業レポートを作成する。新しいタスクを割り振るために個々の得意分野を分析する……。こうした集計や整理には、意外と時間がかかってしまうものです。
しかし、これらの情報は、チーム運営において欠かせません。PDCAを回して業務やタスクを管理する「ワークマネジメント」はもちろん重要ですが、それだけではプロジェクトはうまくいきません。メンバー個々の状況を知り、互いに強みを活かしあう「チームワークマネジメント」があわさってはじめて、プロジェクトは成功に進んでいくのです。

河野の問いかけに、会場の多くの参加者がうなずきました。
ところで、Backlogのユーザーコミュニティ“JBUG”で生まれた名言のひとつに、「Backlogにないタスクは仕事じゃない」というものがあります。日々の仕事のすべてがBacklogに記録されているのならば、状況把握もレポート作成もすぐにできるはず!
JBUGで生まれた名言の数々
……しかし、現状は、一つひとつのタスクの中身を確認していく必要があります。Backlogの画面を行ったり来たりしながら、手作業で情報を集め、レポートにまとめなければなりません。
「情報はBacklogにあるはずなのに、自分で整理しないといけない。この苦労、どうにかしたいですよね。この願いに応えるのが、ヌーラボが満を持して送り出す『Backlog AI アシスタント』です」
あなたのチームの専属アシスタント
河野はデモンストレーションとして、Backlog AI アシスタントの実力を披露しました。画面の右下に常駐するAIアイコンに向かって、こう問いかけます。
「『ちさと』について教えて。稼働状況、仕事の進め方、得意なこと、コミュニケーションを取る上で気をつけた方が良いことは?」
特定のメンバーの人となりや状況を調査させ、要約させるという大胆なデモですが、Backlog AIアシスタントの回答結果は、会場をどよめかせました。
株式会社ヌーラボ
河野 千里
【「ちさと」の状況・どういう働き方をしているか】
- 忙しさの状況:かなり忙しい状況にある(実際に3日連続で登壇中でした)
- 仕事の進め方:タスクを細分化してチェックリスト形式で進捗を可視化しており、他メンバーとも密に連携している(ちょうど、課題内にチェックリストをつくる試行錯誤をしていました)
- 得意分野:チームワークマネジメントの普及、AI活用、コミュニティビルティング
- 注意点:複数のプロジェクトを掛け持ちしているため、急な依頼は避け、余裕を持って相談すること
「結構いい感じで、いいスピードで教えてくれますよね」と、河野は胸を張ります。
これは単なるログの検索ではありません。Backlogに蓄積された活動履歴──完了した課題、コメントのやり取り、Wikiの更新履歴──をBacklog AI アシスタントが読み込み、まとめてくれているのです。
新しいチームが発足したとき、あるいは新人が配属されたとき、「誰が何を得意としているか」「どんな人柄なのか」といったことを把握するのに、これまでは時間がかかっていました。しかしBacklog AIアシスタントがあれば、その“暗黙知”を瞬時に引き出すことができるようになります。
Backlog AIアシスタントは4つの特徴を備えています。
①情報整理:Backlog内に蓄積された情報を文脈に沿って整理し、提供する
②レポート自動生成:進捗や月次レポートの作成を自動化できる
③対話型探求:チャット形式で質問を深掘りできる
④リスク検知:「このままだと炎上しそうです」という予兆を教えてくれる
「βテストをして頂いているお客様からは、『レポート作成時間が8割削減された』『客観的なデータにもとづいて個々を評価できるようになった』という嬉しい声を頂いています。欲しい情報がすぐに手に入る。そんな未来が、もうすぐそこまで来ているんです!」
「課題登録」への特効薬
会場がAIへの期待感に包まれましたが、ここで河野は「ちょっとまってください」とブレーキを踏みます。
「AIは魔法ではありません。あくまでもテクノロジーです。その力を発揮するためには『Backlogに情報が記録されていること』が大前提なんです。……みなさんのチーム、ちゃんと記録できていますか?」
この質問に対し、自信を持って手を挙げられる参加者は、あまり多くありませんでした。日本各地で開催されるJBUGのイベントでも、「課題の登録が定着しない」「みんな書いてくれない」という悩みは常につきまとっています。
入力されなければ、AIは動かない。しかし、入力するのは大変。この「鶏と卵」の問題を解決するための機能が、「AI バックログスイーパー」です。
AI バックログスイーパーは、株式会社ABEJAとの共同開発により生まれたもので、会議をするだけで、課題が自動的に起票されるようになる機能です。ビデオ会議の会話をAIが聞き取り、タスクを抽出し、Backlogに登録・更新の支援をしてくれます。
「これからは、『課題の起票』という最大のハードルを、AI バックログスイーパーがサポートしてくれます。Backlogの運用が進めば、情報がそこに集約され、資産となり、Backlog AIアシスタントの動力源になります。このサイクルを回していければ、きっと仕事は劇的にスムーズになります」

「記録の文化」が未来のメンバーを助けていく
Backlogを提供する私たちヌーラボのミッションは、「To make creating simple and enjoyable(創造を易しく楽しくする)」です。新たなAI機能によって、創造的な仕事をより易しく・楽しくできるようになることは間違いありません。
しかし、大事なポイントは、Backlogを日々運用し「記録の文化」をつくるのは、あくまでも私たち人間であるということです。これからのAIの波に乗り遅れないためには、どのように課題を運用していくべきなのでしょうか。
河野は、自身が実践している、人間にもAIにもわかりやすい「課題運用のコツ」を共有しました。
①まずは、担当者と期限を絶対に設定する
②テンプレート機能で見出しを用意して、「目的」と「完了条件」を明記する(何をもって終わりとするか、あいまいだと、タスクはいつまでも宙に浮いてしまいます)
③目的に対して「段階別の実行内容」のチェックリストをつくっておく。そして課題に取りかかったら、状態を適宜変更する
④今取り組んでいる内容をコメントに記載する
⑤コメントしてくれた上長・同僚にスター(★)で感謝を伝えるのも忘れずに!(ちなみに河野はいつも39回連打しています)
Backlog課題運用のコツ
「こうした課題運用を徹底することによって、先ほどのようなレポートをAIが出してくれるようになります。ぜひ今から、Backlogに情報を書き込む文化をチーム内に根付かせていってください」
セッションの最後、河野はスクリーンに、ある言葉を映し出しました。それは、Backlog AIアシスタントのβテスト参加者(JBUG名古屋運営メンバーである塩谷氏)の名言でした。
「記録はコストではなく、未来への投資!」
今日、Backlogに書き込んだ何気ないコメントが、明日のBacklog AIアシスタントを賢くし、来月の自分たちのレポート作成を助け、未来のチームメンバーを救う。記録はもはや事務作業ではなく、自分たちのチームを強くするための「資産運用」なのです。
「AIに任せたいなら、まずBacklogに書こう!」というセッションタイトルには、テクノロジーが進歩すればするほど、私たち人間の価値が高まっていくという、希望に満ちた真実が込められていたのでした。
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