
2025年11月29日に開催された「Backlog World 2025」では、多くの「悩み」が交わされました。そのひとつは、「せっかくのBacklogを、周りがなかなか使ってくれない……」というもの。実際、なかなか社内に浸透しなかったり、クライアントや取引先に使ってもらうことが難しかったりしますよね。
今回お届けするレポートは、そんな悩みを抱える人は必見!紙文化が根強いクライアントを相手に、いかにしてBacklogを浸透させ、プロジェクトを成功に導いたのか。その極意に迫ります。
目次
登壇者紹介
金子 大地 氏
株式会社JBN
Web制作会社ディレクター兼チームリーダー。ディレクター歴6年目。証券会社、広告企画会社での営業経験を経て現職。長野県長野市在住。1992年生まれ。Backlog利用歴6年。好きな機能はガントチャート。2024年に「JBUG Creative」を立ち上げ。2025年10月の「Nulab Conference 2025」において、認定バックログスイーパーに就任。
「機能」だけでは、プロジェクトは動かない
金子さんがセッション冒頭で投げかけたのは、ツール導入における本質的な課題でした。
「Backlogは便利で使いやすいツールです。でも、どんなに良いツールでも、チームメンバーが使ってくれない、クライアントが使ってくれないのでは意味がありません」
課題を立てても、誰も見ない。書いてくれない。ルールを守らない。結局、メールや口頭でのやり取りに逆戻りしてしまう……。使う「人」がいなければ、せっかくのツールも活きません。
株式会社JBN
金子 大地 氏
「『人が大事だよね』なんてことなら、今までに1000万回は言われています。じゃあ、具体的に誰を、どうすればいいのでしょうか?」
そもそもJBNでは、Web制作プロジェクトが立ち上がると、クライアントもゲストとしてBacklogに招待し、タスクや進捗を「すべてオープンにする」運用を徹底していました。情報をブラックボックス化せず、同じ場所で議論することによって、安心とスピードを生み出していたのです。
しかし、ただ招待するだけでは不十分でした。クライアント側にも能動的にツールを使いこなしてもらうには、どうすればいいか。金子さんがたどり着いた“最強”の結論。それは……
「クライアント側に『バックログスイーパー*』を見つけ、育てることです」

* バックログスイーパー:チームの進行度合いに気を配れる、プロジェクト推進役のこと。 期限切れのタスクがないか見回ったり、曖昧なボールを拾って担当者を割り振ったりして、現場を“清潔”に保つ、重要なポジションです。詳しくはこちら
クライアントの中に「バックログスイーパー」を見つける方法
では、どうやって旗振り役となるバックログスイーパーを見つければいいのでしょうか? 金子さんは、「全員を動かそうとしてはいけない」と釘を刺します。
「まずは1人、『確実に使ってくれそうな人』を見つけてください。その1人が、Backlogをプロジェクト内に広げる起点となります」
そのたった1人を見つける判断基準として、金子さんは「性格」ではなく「行動」を見るべきだと続けます。
こんな人がバックログスイーパーに向いている!
真面目っぽく見えるかどうかより、「テキストコミュニケーションへの適性」や「ボールを素早く打ち返す行動力」があるかどうか、がポイントなのですね。プロジェクト初期のやり取りで、「おっ、この人は!」と感じる瞬間を見逃さないようにしましょう。
そして、候補を見つけたらどうするか。金子さんのアプローチは徹底しています。定例ミーティングのついでにサラッと紹介するだけではありません。
「定例とは別に、1on1で、1時間ほど時間をいただきます。そして、Backlogの導入目的やメリットを丁寧に伝えて、徹底的に味方になってもらうんです」

実際、金子さんは次のようにして、「なぜこのプロジェクトにBacklogが必要なのか」を共有しているそうです。
①メリットを語る
「メールだと流れてしまいますが、これならタスクと期限が一覧で見えて、抜け漏れがなくなりますよ」
②体験してもらう
「こんな風に操作します。ドラッグで課題のステータスを変更できたり、炎上マークで期限切れを確認できたりするんです」
③コスト不安を消す
「Backlogはアカウント課金ではないので、御社の費用負担はありません。もちろんセキュリティリスクもありません」
順を追って丁寧に説明することで、「Backlogを使うほうが、自分たちの仕事も楽になるんだ」と納得してもらえるわけですね。
「ツールを使ってもらうよう“強制”するのではなく、プロジェクトの“共創”のために必要なものだと理解してもらう。これができれば、プロジェクトはドライブし始めます」
そしてもちろん、クライアント側でBacklogが浸透すれば、自社メンバーも使う環境のできあがりです。
“強制”から、Backlogを通じた“共創”へ
「紙文化」のクライアントにBacklogを浸透させる
セッション後半では、金子さんの実践例が紹介されました。それは、「サイトリニューアル ×システム開発×2サイトのCMS移管」というプロジェクトを、わずか3か月で実施するという、PMならば誰しもがドキッとするような案件です。しかも、クライアントは紙文化が根強く、チャットツールは使われていません。
「最初にワイヤーフレームを提出したとき、『印刷で確認したいのでPDFでください』と言われて、頭の中でアラートが鳴り響きました。今のままではコミュニケーションコストが高すぎて、3か月という納期には間に合いません」
幸い、先方の担当者はレスポンスが非常に早く、社内の取りまとめにも積極的に動いている方でした。
「この人なら、Backlogを使ってくれるかもしれない」
金子さんはすぐに行動します。定例とは別に時間を作ってもらうように依頼し、「Backlogというツールがあるんですけど、こちらにデモ環境を用意していまして……」と、実際にプロジェクトの課題を立て、ステータスが変わっていく様子を実演しました。
そして熱意を持って伝えた結果、担当者から「それなら使ってみましょう」と、快諾を得ます。クライアント側にバックログスイーパーが誕生した瞬間でした。
「その後、JBN社内のメンバーも『お客様が使っている』という意識が高まり、Backlogへの情報集約が加速しました。すべての確認・修正指示をBacklog上で完結できた結果、3か月の納期通りに間に合いました。これだけの規模に関わらず、公開後の修正やバグもほとんどありませんでした」

プロジェクトを動かすのは、いつだって「人」
事例を聞いて、「その担当者が、たまたま優秀だっただけでしょ?」と思うかもしれません。しかし金子さんは、「『1人を見つけて育てる』という手法は、他の案件でも再現可能です」と力強く語ります。
その実践に必要なものは、次の3つだけ。
・Backlogを使うメリットがわかる資料
・Backlogのデモ環境(お客様の名前でプロジェクトを立てておく)
・「本気でBacklogを使ってほしい」という気持ち
「クライアント側にバックログスイーパーを創ることは、お客様にとっても、社内にとっても、本当に大きな意義を持ちます。ぜひ、みなさんもトライして、反応があったなら私にフィードバックしてくださいね」

ツールを導入したけれど、いまいち定着しない。そんな時は、マニュアルを作る手を一度止めて、チャット履歴やメールボックスを見返してみてはいかがでしょうか? そこに、あなたのプロジェクトを救ってくれる、未来の「バックログスイーパー」が隠れているかもしれません。
当日の登壇資料はこちらで公開されております
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