
2025年11月29日(土)、プロジェクトマネジメントの祭典「Backlog World 2025」が開催されました。今年のテーマは「AMP & LEAP(増幅と飛躍)」。会場となったパシフィコ横浜には全国から参加者が集まり、オフラインならではの熱気に包まれた一日となりました。
今回はその中から、公募セッションとして登壇された株式会社デジタルキューブ 岡本 秀高氏の講演をレポートします。
「Backlogに書いてあるから探してよ」
「検索しても見つからないんですけど……」
こんなやり取りで疲弊した経験、ありませんか? お悩みを解決するヒントが詰まった本セッション。その内容を余すところなくお届けします!
目次
登壇者紹介
岡本 秀高 氏
株式会社デジタルキューブ
DigitalCubeのBizDev。EC ASPの開発やStripeのDeveloper Advocateとしての経験を元に、SaaSやECサイトの収益を増やすための方法・生成AIを使った効率化や新しい事業モデルの模索などに挑戦する。
※2025年11月29日時点の情報です。
ログは全部ある。でも見つからない
「実は、デジタルキューブへの在籍は“2回目”なんです」
冒頭、岡本さんは、少しはにかみながら自己紹介を始めました。かつて同社に6年以上在籍し、その後、決済プラットフォームStripeのDeveloper Advocateとしてグローバルな舞台などで活躍。そして2025年、再び古巣であるデジタルキューブへ戻ってきたそうです。
グローバル企業でも、プロジェクトマネジメントやチケット管理手法に悩んでいることを知った岡本さん。外の世界を見たからこそ、あらためて気づいたことがありました。それは、創業以来フルリモートを貫くデジタルキューブの「強さ」と、それゆえの「脆さ」です。
同社は、ShifterやAmimotoといった複数のSaaS/PaaSプロダクトを、50名ほどの少数精鋭で開発・運営しています。Backlogを使ったプロジェクト管理は大手と比べても徹底されており、「決まったこと」「やったこと」はすべてBacklogに記録されているそうです。
株式会社デジタルキューブ
岡本 秀高 氏
それなら、過去のデータを参考にすれば、似たような案件も各自が判断して進めていけるはず! ……というのは、あくまでも理想論。
「実際は、『過去のデータのどこかにあるはずなんだけど、見つからない!』となって、『○○さん、あの件について教えてください』と、会話することがたびたび起きていました」
少人数で効率的に運営しているがために、サービスごとの専門性がどんどん高まり、Backlog内の過去データを“見つけられる人”と、“見つけられない人”との差が開いていってしまったのです。
さらに岡本さんは、こんなやり取りを例に挙げました。
「問い合わせを受けたんだけど、Shifterでこのプラグイン使える?」
『ごめん、担当じゃないからわからない』
「じゃあ誰に聞けばいい?」
『XXさんだけど、今は飛行機で移動中だから連絡つかないよ』
「えー!Backlogで検索しても見つからないんだけど……」
これでは結局、お客様に「ちょっとお待ちください」と回答するしかありません。
ログはたっぷり残っているにも関わらず、探してもそれを発見できない。このジレンマが、チームの生産性をじわじわと蝕んでいたのです。
新人を迷子にさせる「暗黙知」の欠如
なぜ、検索しても見つからないのでしょうか? 岡本さんはその原因を、「暗黙知(あんもくち)」というキーワードで紐解きます。
「暗黙知というと仰々しいですが、勘とか、経験則とか、コードの匂いとか、燃えそうな気がするとか、具体的に何でそう思うのか説明できないし、体系立ててドキュメントに整理することも難しいけど、自分の中ではそうなると強く想っているものです」
熟練のメンバーは、この暗黙知をフル活用しています。「この件、半年前のあの案件になんとなく似ているな」という直感で、過去の資料を瞬時に引っ張り出してくることができるのです。これが「職人技」としてのハイコンテキストな仕事を可能にしています。
しかし、その文脈(コンテキスト)を知らない新人には、それができません。
「たとえば、お客様からの問い合わせに関連するドキュメントを探そうとした時、検索キーワードは『横浜』なのか、それとも『みなとみらい』なのか。背景を知らなければ、適切なクエリ(検索語句)を選ぶことが難しいんです」
検索する時、私たちは無意識に「このキーワードならヒットするはず」という「検索スキルの暗黙知」を使っています。この暗黙知を持たない専門外のメンバーにとっては、Backlogの膨大なログは、宝の山ではなく、迷路でしかありません。
その結果、何が起きるか。
①探しても見つからないから、人に聞く
②聞かれる側は同じ質問に何度も答え、疲弊する
③「どうせ書いても読まれない(見つけてもらえない)なら、書く時間がもったいない」と記録しなくなってしまう
こうして、ナレッジベースは徐々に「廃墟」と化していく……。会場のあちこちで、苦笑する参加者の姿が見られました。

検索スキルを「試行回数」で補うための方法
負のループを断ち切るために岡本さんが導入したのが、生成AIです。AIも、新人と同じく暗黙知を持っていません。しかし、人間とは、決定的な違いがあります。
「それは『試行回数』です」
検索を繰り返しても、結果が0件だったり、的外れな結果ばかりだと、諦めてしまうもの。しかし、AIは違います。「見つかるまで、自動的に検索クエリを変えて何度でもリトライし続ける」。これこそが、生成AIに検索を任せる最大のメリットだと、岡本さんは強調します。
では、具体的にどうやって探すのか。二つのやり方を岡本さんは紹介してくれました。
1.Backlog AI アシスタント
これは、Backlogそのものに組み込まれたAI機能です(現在はβ版が提供されており、2026年初頭から一般提供を開始予定です)。たとえば、Backlog AI アシスタントに「Shifterで責任共有モデルを定義したのはなんでだっけ?」と理由を問いかけると、
①まずは「Shifter 責任共有モデル」で課題を検索します
②もし見つからなければ、「Shifter」だけでWikiやドキュメントも検索します
③「責任共有モデル」というキーワードでも検索します
というように、自律的に「検索戦略」を立て、Backlog内のデータを繰り返し探索してくれるのです。
2.BacklogのMCPサーバー
すべての情報がBacklogにあるわけではありません。公式サイトやGitHub、esaなどに情報が分散していることもあります。 そこで登場するのが、2025年5月に実装されたBacklogのMCPサーバーです。BacklogのMCPサーバーは、AIツールとBacklogを接続する仕組みです。これを使うと、「Backlogの課題も見るし、Shifterの公式サイトも見るし、GitHubのコードも見る」といった、プラットフォームを横断した情報収集が可能になります。

「生成AIは、現状はジュニアレベルかもしれませんが、『質問から意図を理解する』『検索クエリを考えて検索する』『検索結果から重要な情報を抽出する』といったことをやってくれます。その上で、要求された情報を発掘するまでリトライしてくれます。実際に使ってみると、過去の案件の検索ヒット率が体感で変わりました」
社内ログを、すぐさまブログに
さらに岡本さんは、AIを使って、ログを「社外向けの資産」に変える実践例も紹介してくれました。
技術ブログや導入事例記事を書こうとすると、「忙しくて書く暇がない(本人)」「実際の中身を知らない(広報)」といった課題に直面するものです。しかし、Backlogには「業務でやったこと」が山のように記録されています。
「Backlogの対応履歴は、AIで独自コンテンツに生まれ変わります」
たとえば 、「Backlogの課題キー DUMMY-299 の対応履歴をチェックして、記事のネタとして取り込んで」 と指示すると、バグ修正や仕様変更のやり取りの中から、読者に役立つ技術的なポイントを抽出し、そのままブログ記事を作成してくれます。
あるいは、大きなプロジェクトが終わった際、それを紹介するためのコンテンツを自動的に企画・製作してくれます。
こうしたAIの活用は、社員のモチベーションにも良い変化をもたらすと、岡本さんは続けます。
「これまでは『どうせ書いても読まれない』と思われていました。しかし今後は『AIが見つけてくれて、仲間やお客様のトクになるかもしれない』と思えるようになるんです」
迷路や廃墟の一部ではなく、自分の手で「宝」を残せるとしたら……? AIは単に検索を便利にするだけでなく、「書く動機」そのものを与えてくれると、岡本さんは示してくれました。
「存在することは、知覚されること」
セッションの終盤、岡本さんはある有名な問いを発しました。 18世紀のアイルランドの哲学者、ジョージ・バークリーが考えたものです。
「もし誰もいない島で木が倒れたら、音はするか?」
……あなたは何と答えますか?
バークリーの答えは「No」でした。彼は、空気の振動を誰かが耳で捉え、脳で認識して初めて「音」となる。つまり、「知覚されなければ、存在しないのと同じである」と考えたのです*。
* これは哲学の「観念論」という立場からの回答であり、唯一の正解ではありませんが、情報の価値を考える上ではとても重要な視点です。

岡本さんは、この考えをプロジェクトマネジメントに置き換えます。
「どんなに丁寧に記録しても、それが誰にも見つけられず、読まれなければ、その仕事は、チームにとって『存在しない』のと同じことになってしまいます」
それはちょっと、悲しいですよね。ログを見つけ出せるようにすることの意義を、あらためて感じます。
「AIという『補助輪』を使って過去ログを見つけていけば、新人や若手メンバーもすぐにチームの文脈(コンテキスト)を理解し、自分自身の暗黙知を育てていくことができるようになります」
あなたのチームのBacklogに眠っている「宝の山」。まずは、Backlog AI アシスタントに、「~について、類似の対応履歴はある?」と聞くところから、発掘していきましょう!
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