Backlogユーザーのみなさま、こんにちは! 2023年12月9日土曜日、Backlog World 2023「Re:Boot-未来への帰還」が開催されました!
Backlog Worldがオフラインで開催されるのは、2019年の東京・秋葉原以来、約4年ぶり。しかも、Backlog発祥の地、福岡で初の開催となります。
全国各地から、前日入りして福岡の食を楽しむ人や、華やかなトゥクトゥクに乗り込んで、福岡市内のドライブを楽しむ人の姿も見られました。12月とは思えないポカポカ陽気のなか、福岡ファッションビルで行われたBacklog World2023から、基調講演の内容をレポートします!
目次
基調講演:倉貫 義人 氏|不確実な世界で成果をあげる〜変化を抱擁するアジャイル思考〜
倉貫氏は、株式会社ソニックガーデンの代表として「納品のない受託開発」サービスを展開しています。また、株式会社クラシコムの社外取締役としてもご活躍されています。プロジェクトマネジメントにかかわるBacklogブログ読者の皆さまの中には、倉貫氏の著書『人が増えても速くならない』を「読んだ!」という方も多いのではないでしょうか。
「ランチに麺類を食べて、すでに眠い方もいらっしゃるのでは?」
ランチタイム後、最初の講演となる倉貫氏からの問いに会場が笑いに包まれたところで、講演が始まりました。
アジャイル開発との出会い
10歳の頃からプログラミングを始めた倉貫氏は、エンジニアとして大手企業で開発に取り組むなかで、壁にぶつかります。
システムの開発に取り組むなかで、「もっとこうした方がいいんじゃない?」と提案をしてみても、「上流で決まっていることだから」と、開発の流れを変えることができない状況を目の当たりにします。また、「エンジニアの働き方って大変だね」と周囲の人から言われることも多く、エンジニアの働き方に対しても課題を感じるようになったそうです。
この状況にもどかしさを感じた倉貫氏は、本来あるべきプロジェクトの進め方について考え始めたのです。
この時、倉貫氏が出会ったのが、「アジャイル開発」です。
アジャイル開発に出会って以来、アジャイル開発の普及活動に貢献したいと考えた倉貫氏は、前職の大手企業でもアジャイル開発に取り組もうと試みます。しかし、顧客からは「最後に一括で納品して欲しい」と要求されてしまうなど、思うようにアジャイル開発を進めることができませんでした。
プログラマで、生きていく
「こうなったら自分で会社を作ろう」と考えた倉貫氏ですが、まずは、社内ベンチャーという形で2年間、アジャイル開発での新規事業開発に取り組むことになりました。そして2011年、事業を買い取るという形で独立を果たしました。
株式会社ソニックガーデンを創業した倉貫氏は、「どんな会社を作ろうか」と考えます。
創業メンバー5人全員がエンジニアであったことから、「エンジニアが幸せに働ける会社を作りたい!」と心に決め、「プログラマで、生きていく」という企業理念を掲げました。
アジャイル開発でのシステム開発を、お客さま向けに、「一緒に悩んで、いいものをつくる」と表現し、スローガンにしました。
エンジニアの働き方にも課題を感じていた倉貫氏は、ユーザーもお客さんも、そしてエンジニアも元気でいられるようにとの思いを込めて、エンジニアが開発を受託するのではなく、お客さんと一緒にチームになって開発を行うサービスである「納品のない受託開発」を作り上げました。
クリエイティブな仕事で生産性を上げるには
会社を作った倉貫氏は、自社で働くエンジニアの生産性についても考えます。クリエイティブな仕事をしているエンジニアの生産性は、どうすれば上がるのでしょうか?
倉貫氏が導き出した答えはこうです。
「再現性の低いクリエイティブな仕事で生産性を上げるためには、監視することなく、自分たちで考えてもらい、自律的に動いて自主決定をしてもらうことを決めました。
つまり、セルフマネジメントができる人たちで構成する会社にしようと考えたのです。うちには、上司や指示命令もないし、決済も売上目標、評価もありません。」
こうして、エンジニアによる、エンジニアが幸せに働くための、会社が作られました。
不確実さが増す時代の仕事はどう変わる?
倉貫氏は、会場のみなさんに向けて問いかけます。
『新型コロナウイルス感染症も誰も想像していなかったし、今、円安が起きています。
昔のように経営計画を立ててその通りに事業を進めるやり方が難しく、不確実さが増す時代のなかで、仕事はどう変わるのでしょうか?』
作業と仕事は違う
「作業と仕事は違います」と、言い切る倉貫氏は、以下のように話を続けます。
- 「作業」は指示通りに動くこと。AIは作業が得意。
- 「仕事」とは、誰かの指示通りに働くことではない。
- 自分の頭で考えて働くのがナレッジーワーカー。
「クリエイティブな仕事とは、再現性の低い仕事です。
エンジニア、人事、マーケティングとさまざまな職種がありますが、日々新たな仕事の進め方を模索し、学び、発見をする方は多いのではないでしょうか。そういった方は、皆さんクリエイティブな仕事をしている方なのです。クリエイティブな仕事をしている人たちはナレッジワーカーです。」
では、ナレッジワーカーで構成された組織における「プロジェクトマネジメント」は、どのように行えば良いのでしょうか?
ナレッジワーカーのプロジェクトマネジメント
倉貫氏は、8つの例を挙げて説明していきます。
みなさん、いかがでしょうか?
こうすれば、プロジェクトは上手くいくでしょうか?
「これを全部やったらプロジェクトを失敗できるので、ぜひチームで試してみてください!笑」と、倉貫氏はニッコリ微笑みます。
ここで問題です!
そもそも、「プロジェクトマネジメント」とはなんでしょうか?
プロジェクトマネジメントは「管理」ではない
プロジェクトマネジメントについて、倉貫氏は語ります。
『「プロジェクトマネジメントとは、プロジェクトをいい感じにすることです。
ピープルマネジメントは、人をいい感じにすることです。』
プロジェクトは、完成しても終わりではないし、人を増やしても速く作れるわけではない。たくさん作っても生産性が高いとは言えないし、アイディアを出す人にプレッシャーをかけても生産性は上がらない。見積もりを求めるほどに絶望感は増し、一度に大きく作れば得に見えて損をする。工程を分業しても、効率化にはつながらない。再現性の低いクリエイティブな仕事はこれらが当てはまるのです。
「不確実さが増す時代、これからのプロジェクトには常識が通用しない。これからは結果にコミットしないプロジェクトマネジメントが良いのではないか」と、倉貫氏は話を続けます。
結果にコミットしないプロジェクトマネジメント
倉貫氏が社外取締役を務める株式会社クラシコムでの事例を元に、「結果にコミットしないプロジェクトマネジメント」について教えてくれました。
株式会社クラシコムは、「北欧、暮らしの道具店」を運営している会社です。3年間でスマホアプリが300万ダウンロードを突破するなど、多くの方に使われているサービスを提供しています。創業以来事業成長を続けており、2022年には上場を果たしました。
2018年から社外取締役に就任した倉貫氏は、
「経営と開発チームが一緒の方向を向いて、同じチームとして成果を出していくこと」に、拘りを持って取り組んできました。
【プロジェクトマネジメントで取り組んだこと3つ】
- 経営と開発で、同じロードマップを見て話す
- スケジュールは固定せずロードマップを更新
- 制御できるサイズに、スコープを小さくする
倉貫氏は、経営陣と開発チームが行っていた「進捗会議」を辞め、代わりに「ロードマップミーティング」を導入しました。
不確実なプロジェクトでは、想定外のことも起こるし、予定通りに進まないことが多々あります。そうなると、進捗会議のたびに、開発チームは経営陣に「遅れています(汗)」との報告をしなければならない状況が発生していました。
「スケジュール」ではなく「ロードマップ」
株式会社クラシコムのプロジェクトの要となっている「ロードマップミーティング」について、倉貫氏は話を続けます。
『開発側と経営陣が見ているロードマップが異なることで、双方の間に分断が生じてしまいます。経営陣と開発チームが同じロードマップを見ながら会話することを決めたんです。
また、「スケジュール」と言うのを辞めました。「スケジュール」ではなく「ロードマップ」と呼びます。ロードマップには、プロジェクトが一並列に並んでいます。時間軸として近くのものは正確に見積もり、遠くのものはぼんやりと順番だけを決めておきます。時系列で時間軸に重要なプロジェクトを並べていくのがロードマップの特徴です。
いつまでに何をするという「スケジュール」は固定せず、隔週でロードマップミーティングを行う度に、ロードマップを更新していきます。「未来に向けて少しずつ進んでいる感覚を得られること」が、大切なのです。』
開発チームと経営陣が同じロードマップを見ながら開発を進めることで、経営陣の気持ちにも変化が現れてきたと言います。
「決めた機能をリリースする期日を絶対守って欲しい!」ではなく、
「開発チームが、今あるリソースでベストを尽くすことが重要である!」と、
経営陣も開発チームもお互いを理解し合った上で、一緒の方向を向いて進んでいくことができるようになったそうです。
変化を抱擁するアジャイル思考
具体的な事例を元に「結果にコミットしないプロジェクトマネジメント」について話がありましたが、より抽象化したテーマとして、「アジャイルであるとはどういうことか?」についても、語ってくれました。
『弓道には、正射必中(せいしゃひっちゅう)という考え方があります。今のフォームに集中して必ずいいフォームで投げることで、必ず的に当たるという意味です。
つまり、結果を約束せずに、今のフォームに集中することが大切なのです。
不確実な時代、先がどうなるかわからない場合には、ベストを尽くして、振り返りをしましょう。
振り返りをしながら自分をアップデートしていくことが大事だと倉貫氏は言います。
最後に、
「どうなっても大丈夫だ!」と、良いことも悪いことも受け入れられる強さを身につけましょう』と、力強く締めくくりました。
ーーー
おわりに
不確実な世界を生き抜くためにはどのような思考が最適なのか、日々試行錯誤を重ねる私たちにとって、とても参考になる講演であったかと思います。今回倉貫氏に教えていただいたアジャイル思考を身につけて、しっかりと成果を上げていきたいですね!
こちらもオススメ:
プロジェクト管理とは?目的や項目、管理手法について徹底解説! | Backlogブログ
プロジェクト管理の基本や主な項目を紹介。CCPMやWBSなどのプロジェクト管理の代表的な手法やプロジェクト管理全体の流れを解説。これからプロ…
backlog.com