経済産業省の事業者向け行政サービスのデジタル変革を推進する「デジタル・トランスフォーメーション室」ではシステム開発プロジェクトでBacklogが採用されています。
ベンダーとの課題管理やコミュニケーションで使われていたメールやエクセルの代替として、Backlogを標準ツールとして導入した同省。Backlogにより “プロジェクトマネジメントにおけるメールのやりとりが減り、変革が起きつつある” と話す、経済産業省情報プロジェクト室室長補佐の吉田泰己さんと中小企業庁のデジタル化を進める林大輔さんに、Backlog導入後の効果をお伺いしました。
プロフィール(写真左から)
・吉田泰己(よしだ・ひろき):経済産業省情報プロジェクト室室長補佐。省内のデジタル化に向けた組織体制作りに従事。事業者向けの行政手続とバックオフィスのデジタル化双方を推進。
・林大輔(はやし・だいすけ):民間企業出身の知見を活かして、経済産業省のデジタル・トランスフォーメーションに関わる。現在は中小企業や小規模事業者向け情報発信サイトミラサポplusの開発プロジェクトなどを管理している。
導入目的 | ■ 経済産業省のデジタルプラットフォーム構築プロジェクトで10社以上の外部ベンダーとの問合せ管理や課題管理をメールやエクセルではなくBacklogで管理したい ■ 経済産業省が策定したセキュリティ要件を満たしているクラウドツールを導入したい |
課題 | ■ 気付くとメールのタイトルが「Re:Re:Re:Re:」続きで、メールの件名だけではどの案件か判別できない ■ 中小企業庁のプロジェクトではベンダー7社から週に約2回のペースで課題管理表などの確認依頼があり、過去の経緯が複数ファイルにまたがると確認のために膨大な時間がかかる ■ ベンダーから送付されるzipファイルの解凍とパスワードの確認に費やす工数を削減したい |
効果 | ■ 問い合わせをBacklogに一元化したことで、対応状況が整理され可視化できるようになった ■ 課題管理やWBSをBacklogで代替できたので、個別のファイル確認作業が無くなり、事務作業が3分の1削減 ■Backlogが提供しているセキュリティチェックシートで経済産業省が策定したセキュリティ基準に準拠していることを確認 ■ 従来メール文化が根強かったが、中小企業庁プロジェクトを中心に他プロジェクトへの横展開も進みコミュニケーションが効率化されている |
業種 | 官公庁 |
Backlogを利用している事業部 | 経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁 |
利用しているヌーラボサービス | Backlog(クラウド版) |
目次
経済産業省が推し進めるデジタル・トランスフォーメーションとは
ー経済産業省では省内のデジタル化を進めるべく「デジタル・トランスフォーメーション室」を立ち上げたそうですね。同プロジェクトについて教えてください。
吉田:事業者向けの行政サービスのデジタル化を進める部署として、2018年7月に経済産業省内に「経済産業省デジタル・トランスフォーメーション室」という部署横断的な組織を立ち上げました。省内のデジタル化を推進すべく、基盤システムや業務改革を担当する部署と連携して、行政手続きやバックオフィス業務のデジタル化に積極的に取り組んでいます。
現在様々な部局でデジタル化に向けた取組を進めていますが、中小企業庁デジタル・トランスフォーメーション室は、その先行した取組のひとつとして、中小企業を対象としたサービスのデジタル化に取り組んでいます。具体的には中小企業や小規模事業者向けの行政手続の簡素化、情報発信のためのプラットフォーム構築などです。
ーデジタル化を推進した背景には、行政としてIT化に積極的に向き合わないといけないという課題意識があったのでしょうか。
吉田:そうですね。行政のデジタル化が進んでいるシンガポールやエストニアなどの先進的な国々と比較すると、日本の行政手続きは引続き紙が中心となっており、民間サービスもデジタル化する中で、ユーザーの利便性が非常に低い状況です。この現状を見直す上でもデジタル化に本腰を入れて取り組む必要があると感じました。
その中でも企業をユーザーとする行政手続が多い経済産業省が真っ先にデジタル化に取り組む必要があると感じ、これに着手しています。
行政のデジタル化を抜本的に進めるために、ITに強い民間企業出身者をデジタル化推進マネージャーとして採用しました。林さんもその1人です。これまでの行政組織にはITの専門家がいないために、利用しづらいシステムが作られてきた面があります。デジタル化推進マネージャーを登用することで、ベンダーと行政官のコミュニケーションをより円滑に行い、より良いサービスの構築につなげられると考えています。
デジタル化推進マネージャーの皆さんにはそれぞれ異なるプロジェクトで活躍していただいていますが、彼らが1つのチームとして連携できる環境を準備することで政府の方針と開発されるシステムの方針の整合性をとることも狙っています。
経済産業省庁のプロジェクト管理の“標準ツール”としてBacklogを導入
ー省内のデジタル・トランスフォーメーションプロジェクトの流れでBacklogはどのように活用されているのでしょうか。
林:Backlogは経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁におけるデジタルプラットフォーム構築プロジェクトで利用しています。
実は私は民間のIT企業出身で、2018年6月にデジタル化推進マネージャーとして経済産業省に採用されました。即戦力として入社したため、入社後の翌7月には省内でデジタル・トランスフォーメーション室が立ち上がり、外部ベンダー7社と行政手続きの電子申請システムや情報発信プラットフォームの構築プロジェクトが始まりました。
当初はベンダーごとにプロジェクト管理の進め方が異なり、課題管理表とWBSのファイルが乱立するような有り様でした。さらに、課題管理表のフォーマットもベンダーによって異なっていました。私たちプロジェクト管理者の確認作業の工数が膨大だったので、それを解決して課題管理を標準化するべく、Backlogをプロジェクト開始から1ヵ月足らずで導入しました。
基準を満たしたセキュリティ環境でBacklogクラウド版を安心導入
ークラウド版を導入するときにセキュリティ要件など懸念はありませんでしたか?
林:クラウド版の利用にあたっては、Backlogが提供しているセキュリティチェックシートで経済産業省が策定した基準に準拠していることを確認しました。また、運用についても個人情報や非公開の情報など機密性の高い情報はBacklog上で扱わないというルールを決めています。
Backlogはオンプレミス版も提供していますが、外部の委託ベンダーと情報共有することが必須だったので、クラウド版を選択しました。
また、経済産業省で行っているクラウドツール利用時のセキュリティ対策としては「セキュリティ対策基準」にもとづいた情報の管理をしています。
Backlog導入の効果①進捗管理ツールの標準化ができて事務作業が3分の1削減
ー導入前の課題管理で起きていた問題について教えてください。
林:Backlog導入前の課題管理で起きていた問題は大きく3つあります。
1つ目は、ベンダーごとに提出される課題管理表が標準化できない問題です。課題管理表のフォーマットは、プロジェクトキックオフのタイミングでプロジェクト計画書とともに提出してもらっていましたが、ベンダーのなかには、課題管理表のフォーマットが定まっておらず何度も確認を要求されたり、タスク管理の進め方をすり合わせる必要があったりと、準備段階で時間を要するところもありました。
2つ目に、課題管理表と進捗管理表(WBSなど)の複数のファイルが存在することによる確認作業の手間です。ベンダーから更新された課題管理表などがメールで届くたびに、共有フォルダ内にある過去の課題管理表や進捗管理表の内容との整合性を確認しながら回答などを記入する必要がありました。ベンダー7社から多い時には週に2回のペースで確認の依頼があったので、作業時間も膨大でした。
3つ目は、メールに添付されたzipファイルの解凍とパスワードメールの検索に費やす工数です。2つ目にあげた問題にも関連するのですが、ベンダーによっては課題管理表をメールで送るときにzipファイルに圧縮して暗号化し、さらにパスワードを別メールにして送付されることがよくあります。この際の、まずzipファイルを保存して、パスワードメールを探して、zipファイルにパスワード入れて解凍して、最後にファイルを共有フォルダに入れて…という一連の煩雑な事務作業も効率化したかったのです。
ーBacklog導入による定量的な効果について教えてください。
林:Backlog導入後、すべてのベンダーの課題管理表のフォーマットが標準化でき、ファイル管理の手間が省けたことで、3つの問題が原因で発生していた事務作業が時間にすると1週間で90分、体感値では3分の1ほど削減できました。
Backlogは課題の担当者、状態、期日などが管理項目として設定されているので、ベンダーとの確認が不要になりました。それに加えて、課題管理とガントチャートが紐づいているので以前のようにWBSなどの表を用意してもらう手間もなくなりました。
Backlogにはファイル共有のサービスがついているので、そこにファイルを保管すれば、暗号化せずとも、ベンダーとのファイルの共有ができます。実際にアクセスするときは、各ID/パスワードで認証されている方のみが閲覧できるなどアクセス管理もできているのでセキュリティ面でも安心です。
Backlog導入の効果②メールでのコミュニケーション問題が劇的に改善
ーBacklog導入は、メールコミュニケーションにも効果がありましたか?
林:はい。ベンダーからシステム構築時の要件確認などで問い合わせを受けることが多かった時期は、1日平均5件あり、応対に半日ほど費やしていました。
こうしたベンダーとのやり取りは長くなることが多く、気付くとメールのタイトルが「Re:Re:Re:Re:」続きになって、メールの件名だけではどの案件か判別できないことが頻発していました。さらに、メール上のやり取りだけでは、各問い合わせのステータスも解決済なのか否かの管理が煩雑でした。
ーBacklog導入によってメールの問題はどう改善されましたか。
林:ベンダーとの問い合わせをBacklogでやり取りできるようになったことで、メールの情報整理や探索に費やす時間が劇的に減りました。ベンダーからの問い合わせの対応状況をBacklogで見える化できるようになったので、どの問い合わせが解決済みなのか否かが一目でわかるようになりました。ベンダーからも「仕事がやりやすくなった」という声をもらっています。
他にも、私たちがベンダーと他の部局を中継して要件を固めることもあるのですが、Backlogを導入してからはプロジェクトを作成して、他部局の担当者とベンダーで直接やり取りをしてもらっています。これによって、余計なメールのやり取りなどコミュニケーションのストレスも減りました。
省庁内でも標準ツールとしてBacklogが浸透中
ー経済産業省や外局のプロジェクトにおける課題管理やコミュニケーションでもBacklogの浸透が進んでいるそうですね。
林:はい。ベンダーとのプロジェクト管理の標準ツールとして、経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁のデジタルプラットフォーム構築プロジェクトにおいてBacklogの利用が浸透したので、次のステップとして中小企業庁内の他のプロジェクトでもメールに代わる標準ツールにできないかと考えています。
メールとの親和性が高い機能を持つBacklogのおかげで、メール文化に慣れている職員でもすんなりBacklogに切り替えることができています。たとえば、課題追加やコメント時に自動配信されるメールに直接返信することでコメントを登録できたり、課題登録もコメントからできるという機能がありがたいです。最初はメールを使っていたメンバーが徐々に切り替えできるようになっているので便利です。
ー省内の打ち合わせなどでもBacklogを活用されていますか。
吉田:はい。電話や会議などで進捗の確認や報告をする機会が多かったのですが、Backlogを導入してから「確認のために電話をする、会議をする」ということが減りました。Backlogに情報が集約されているので、最初の一歩としてまずはBacklogを見る!という習慣ができています。
会議の議事録もBacklogで管理しています。会議中に課題のBacklogリンクを共有するだけで情報共有が完了するので、とても楽ですね。
ーIT系のツールに慣れていない方でも問題なくBacklogは利用できていますか?
吉田:そうですね。今後、イベントや研究会を運営するような事業においても導入の可能性があると思います。複数の関係者が存在し、問い合わせや確認事項が頻繁にあるような作業においては、Backlogの活用が業務の効率化に貢献すると思います。
ITベンダーとのプロジェクト管理と同じように、Backlogはどこまで合意形成ができているのか、プロジェクト単位で明瞭になるので、プロジェクト管理のフォーマットをそのまま転用できるのではと考えています。
官公庁でクラウドツールの導入を推進して活用するための提案
ー行政手続きなどのデジタル化が進むなか、官公庁がクラウドツールを導入して十分に活用するためには何が必要でしょうか?
吉田:クラウドツールが自分たちの組織にフィットするかどうかは、実際に使ってみないと分からないことが多いと思います。
私たちの例だと、サービス開発時に使いやすいか否か、という視点が大事です。なので、ITベンダーとやり取りをする民間企業出身のデジタル化推進マネージャーの方に実際に使ってもらってから決めます。
使いたいツールが決まったら、それを定着化させる仕組みづくりも大事です。重点的なプロジェクトには、デジタル化推進マネージャーが1人つくため、その担当者が行政官やITベンダーも含むチームメンバーに対してBacklogの利用を推進する役割を担っています。官公庁のみならず、クラウドツールを普及・定着させるためには、人とツールがきちんと結びついた、導入の”仕組み作り”が重要ではないでしょうか。