Backlogは広報の強い味方!山口情報芸術センターのスピーディなイベントPRの秘訣
Backlog導入前の課題
広報担当の人員増加と業務の拡大により、カンバン型のタスク管理ツールではプロジェクトを管理しきれなくなった
Backlog導入後の効果
週一回会議で、各自のタスクの進捗をBacklogのガントチャートで確認。細かいタスクの担当者や期限を明確にできたことで業務の負荷や無駄・ムラを解消
仕様や画面は現行バージョンと異なる可能性があります。
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メディアテクノロジーを用いた表現や教育プログラムを世界に向けて発信する、山口情報芸術センター YCAM の広報業務にBacklogが活用されています。短いサイクルで、さまざまなイベントのPRをスピーディにこなす同センターのスタッフにBacklogを用いた「タスク管理術」をお伺いしました。
――YCAMについて教えてください。
YCAM渡邉朋也:山口情報芸術センター (以下、「YCAM(ワイカム)」)は、山口県山口市にあるアートセンターです。展示空間のほか、映画館、図書館、ワークショップ・スペース、レストランなどを併設しています。
2003年の開館以来、コンピューターや通信技術、映像をはじめとするメディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動しており、展覧会やダンス・演劇などの公演、ライブ・コンサート、映画上映、子ども向けのワークショップなど、多彩なイベントを開催しています。
――YCAMではユニークなイベントが多いですが、どのようなコンセプトで企画を決めているのでしょうか?
YCAM青柳桃子:YCAMの多くのイベントの背景にあるのが「研究開発プロジェクト」と呼ばれるものです。内部に設置された研究開発チーム「YCAMインターラボ(InterLab)」が、市民や各分野の専門家たちと積極的にコラボレーションしながら、コンセプトづくりから、作品やイベントの制作までを、数年かけて地道に取り組んでいます。これらのプロジェクトを同時並行で展開しているのがYCAMの特徴だと思います。
渡邉:プロジェクトを基盤に多岐に渡るイベントを開催していますが、基本的な方向性として「芸術表現」「教育」「コミュニティ」の3つに集約されます。
これらの方向性の背景には、メディア・テクノロジーの発達によって、私たち個人のリアリティや、社会のあり方が大きく変化した現在の状況があります。こうした状況において、メディア・テクノロジーとどう向き合うか、メディア・テクノロジーを用いてどのような地域社会を実現するか、多くの人たちと模索していかなければなりません。そういうときに鍵になって来るのが先に挙げた3つだと思います。
――具体的にどのようなイベントを開催されているのでしょうか?
青柳:YCAMのイベントは様々な形態で開催されています。そのため、メインターゲットもイベントごとに大きく異なります。いま開催している「コロガル公園コモンズ」のメインターゲットは子どもです。
センター全体の活動として、大人と子ども、専門性の高さと間口の広さ、男性と女性など、どちらかだけに偏るのではなく、なるべく幅広い層にアプローチできるイベント企画を心がけています。
毎月複数のイベントを同時開催--YCAMの広報業務は3ヶ月周期でプロジェクトが進む
――青柳さんと渡邉さんの業務内容について教えてください。
青柳:広報担当として、県内、県外、国外向けのPRをしています。アシスタント2名と協力しながら、YCAMが実施する展覧会や公演などのイベントに関する情報をさまざまなアプローチで発信しています。YCAMでは、どのイベントもオリジナルのものなので、新しいイベントの企画が立ち上がるたびに、それらのコンセプトやターゲットを吟味して、PR戦略を立てています。
渡邉:ドキュメンテーション担当として、イベントの情報を整理するドキュメンテーションやそれらを発信するためのプラットフォームの整備をしています。その延長線でポータルサイトのディレクション/プロデュースも担当しています。近年では、YCAMが過去に制作した作品の保存・修復・再制作なども手がけています。
YCAMでは伝統的に広報とドキュメンテーションが一緒のセクションにまとめられることが多く、その関係でいまは広報業務のマネジメントも担当しています。
青柳:Backlogは、主に私たち広報担当で活用しています。利用しているメンバーは、私と渡邊と広報アシスタント2名の合計4名で、各自の業務を管理しています。
――広報業務はイベントのスケジュールと密接に関わっていますが、どのようにタスク管理をしているのでしょうか?
渡邉:まず大枠のスケジュールを把握するために、開催イベントの規模感やスケジュールが決まるタイミングで、年間の計画をスプレッドシートに書き込んでいます。さまざまな都合で変更になることも多いので、あくまでも目安程度です。
そうすると、年間のどの辺りで業務量のピークを迎えるのかが分かります。ピークの時期には、どうしてもリソースが分散してしまうので、出来ないことが増えてきます。なので、目標設定を下げたり、あるいは外部のパブリシストに業務委託するなど、大まかな対応を決められます。
青柳: そのうえで、それぞれのイベントごとに必要な広報業務を細分化してBacklogに課題として登録しています。たとえば、イベントの開催の3ヶ月前にイベントの概要をまとめた「プレスリリース」と呼ばれる資料を発行します。そして、2ヶ月前にフライヤーが完成し、そこからフライヤーを配布する、といったように、すべてのイベントに共通して実施しなければいけない広報業務をどんどんBacklogに登録しています。
関連ページ:Backlogのタスク管理機能の一覧
広報の細かい作業は3段階(前パブ・中パブ・後パブ)に分けてBacklogで管理
――冒頭でYCAMの広報業務は県内向けと県外向けに分けられるとありましたが、各業務のすみ分けについて教えてください。
青柳:まず県内向けについては、地元のテレビ局や新聞社向けのアプローチが挙げられます。プレスリリースの作成から、取材の調整や対応などが具体的な作業内容です。このほかにも、YCAM周辺の商店街などでのフライヤーの設置や、市内の小中学校への配布などもこれに含まれます。
また、県外向けの広報業務としては、全国規模のテレビ局や新聞社、専門性の高いウェブマガジンや雑誌向けのアプローチが挙げられます。作業内容としては県内向けと大差ありませんが、専門性が異なるのでプレスリリースの作成の仕方や、取材の調整の仕方が異なります。
渡邉:基本的に、こうした県内向けと県外向けのアプローチを、ひとつのイベントで両方やらなければならないんですね。また、それらのアプローチのタイミングや目的も、イベントの開催前におこなう「前パブ」、開催中におこなう「中パブ」、終了後におこなう「後パブ」といった具合に分かれていきます。
――前パブ・中パブ・後パブの具体的な業務内容は何でしょうか?
青柳:基本的に前パブはイベントの集客を主な目的に実施します。先ほど説明した県内のマスメディアに向けたアプローチの大半はこの前パブに相当します。
中パブは、イベント開催中の広報活動なので、ダンス・演劇公演やライブコンサートのような単発のイベントでは実施できません。基本的には会期が長い展覧会で実施することになります。
渡邉:YCAMの場合、展覧会で展示する作品の多くは、アーティストとYCAMがコラボレーションしてオリジナルに制作するものです。ですので、事前に作品のビジュアルや概要を十分に出せないこともあります。会期が始まればそれらを用意できるので、中パブではそれを元に改めて情報を県内外のマスメディア、ウェブマガジンや雑誌などに発信して、関心を掘り起こすということが狙いになります。
青柳:後パブは作品の今後の展開をより充実したものにするために実施したり、今後YCAMで同種のイベントを開催するときに備えて実施したりする場合も多いです。YCAMの場合、展示作品のオリジナリティが強いため、国内外の別の美術館やアートフェスティバルで再展示することも多々あるんです。
――これらの広報業務はBacklogでどのように管理されていますか?
青柳:まず、タスクをイベント単位でマイルストーンに分類し、そのうえで作業内容に応じたカテゴリーで分類し、課題にしています。カテゴリーは「報道資料(の作成)」や「プレスリリース(の送付)」や「商店街配布」といった具合です。こうした課題を、親課題である「前パブ」や「中パブ」などの子課題として登録しています。
渡邉:Backlogは担当者を一人しか設定できないのが特長ですよね。こうした仕様は賛否が分かれる点なのかなと思いますが、自分たちとしてはタスクにおける責任の所在の明確化を促すものだと捉えて積極的に活用しています。
例えば「フライヤーを商店街の店舗に設置する」といったざっくりとした業務があります。それは毎月広報アシスタント2人が同時におこなってくれているのですが、実際に細かく業務を見ていくとエリアごとに細かく分担があるんですよ。
それらの業務を個人で責任を負える範囲で切り分ける、つまり「誰が商店街のどのエリアにいつまでにフライヤーを巻く」といった具合に腑分けしています。こうした考えが業務の全般に浸透した結果、進捗が遅れた際の原因の究明や対処がしやすくなったように感じています。
――Backlogを導入する前は広報タスクをどのように管理されていたのでしょうか?
渡邉:以前はカンバン型のタスク管理ツールを利用していました。その当時は、私と青柳の2名体制でプロジェクトの規模も小さく、細かく管理をする必要性がなかったのですが、メンバーが増え、プロジェクトの規模が大きくなったタイミングで、誰が何を進めているのかチーム全体の具体的な動きが見えづらくなり、業務がスタックしやすくなりました。
カンバンは個人のタスク管理には向いているものの、前パブから後パブまでの一連のプロセスで発生する細かいタスクの管理には向いていなかった、「チームでプロジェクトを成功させる」という目的には向いていなかったのではないか、と思っています。
――なるほど。Backlogに切り替えたことでどのような効果がありましたか?
渡邉:以前は、人によって担当する業務の負荷や無駄・ムラが発生してしまい、リソースを適切に配分できていませんでした。Backlogに切り替えて、ガントチャートで時系列でメンバー各自の作業内容と進捗を見れるようになったことで、リソースの適切な配分ができるようになりました。
青柳:広報のセクションでは、進捗確認のために週次会議を開催しています。そのときにBacklogのガントチャートを使って業務の進捗を確認しています。漏れがないかチェックしたり、1人にタスクが集中している時に分担したり、「今やること・やらないこと」を決められたりするようになりました。Backlogはチームでのコンセンサスを取るための必須ツールとなっていますね。
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状況が刻一刻と変化するイベント広報の成功の型をBacklogで横展開していきたい
――Backlog導入時に他のツールは検討されましたか?
渡邉:他のツールも実際に試してみましたが、現在の広報のコンピューターに対するリテラシーや、英語サービスへの慣れ、今後の引き継ぎのことなど、いろいろな条件を考慮していった結果、Backlogに行き着きました。
個人の好みにもなりますが、Backlogは他のプロジェクト管理ツールと違って、使い勝手だけでなく、ユーザーの体験や感情までよく考えて設計されていると感じます。日本のWeb 2.0以降のウェブサービスが培ってきた資産がうまく継承されている印象です。
先ほど「課題に担当者を1人しか設定できない」といった話を挙げましたが、一見すると使い勝手が悪いように感じられるところも散見されます。しかし、これは設計理念のようなもので、こういう仕様に沿って利用した方が、タスク管理を確実に成功させられるという開発者のビジョンの表れだと受け止めています。
私はマネジメントの専門家ではありませんので、そうした仕様から滲み出るビジョンを私たちの業務への提案だと思って、常に現実の業務とサービスの仕様の折り合いを考えながら利用しています。このような工夫がさほど苦にならないのも、Backlogの優れた使い勝手の産物だと思います。
――YCAMのようなイベント企画・実行をしている方たちにとってプロジェクト管理ツールはどのような役割を担っているのでしょうか?
渡邉:備忘録であり議事録ですね。イベントを取り巻く状況は刻一刻と変化していきますので、それを忘れないようにストックするために欠かせないツールだと感じています。
その他にも労務管理にも役立っています。単純に残業代がかさむと事業費を圧迫することにもつながりかねませんから、そうしたことが起きないよう事前にタスクを間引いたり、担当者の割り当てを臨機応変に変えるようにしています。
――最後にBacklogの活用計画を教えてください。
青柳:私たちの広報業務におけるプロジェクト管理の「型」のようなものはBacklogである程度作れたと考えています。今後、広報担当が増えたり、入れ変わったりする可能性もあるので、それを考慮に入れた型にアップデートしたいと思っています。また、Backlogでできた型をイベントの企画担当者など、他のセクションとのやりとりにも広げていく可能性もあると思います。
渡邉:Backlogはよく出来ているとはいえ、結局はサービスであり道具です。なので、ユーザーがどういう風に使うかが重要です。自分たちの業務を客観的に見つめ直して、Backlogにどのように落とし込むのがベストなのか、そしてどのように継続的に運用していくのか。そのための方策をチームの他のメンバーと一緒に議論していく労力は必要だと思います。
YCAMには作品制作やイベント制作に関わるテクニカルのスタッフが多数在籍しており、現場ではGitなどは活用の実績があります。なので、BacklogのGitなどの機能は親和性が高いと思います。いま挙げたような点を留意しながら、他のプロジェクトでも応用したいと思います。
※掲載内容は取材当時のものです。