「あの人頼み」からの脱却へ。約250社を擁する近鉄GHDがBacklogで構築した「デジタル相談窓口」の舞台裏

近鉄グループホールディングス様 Backlog導入事例

Backlog導入前の課題

・DXに関する問い合わせが個人への電話や属人的な連絡に依存し、対応の経緯や判断が組織に残らない状態だった
・グループ会社ごとに状況が異なり、誰に・どこへ相談すればよいのか分かりにくかった

Backlog導入後の効果

・相談窓口をフォームに一本化し、対応をタスク管理することで、支援チーム内で対応状況を可視化できるようになった
・プロジェクト開始以降の対応履歴が蓄積され、異動があっても知見を引き継げる状態が整った

運輸、不動産、ホテル・レジャーなど、約250社のグループ会社で構成される近鉄グループ。その巨大な組織のDXを推進する近鉄グループホールディングスが直面していたのは、「詳しい人に聞かないと分からない」という、人に依存したアナログなオペレーションの壁でした。

この構造を打破するために立ち上げたのが「デジタル相談窓口」です。プロジェクト・タスク管理ツール「Backlog」を基盤に、属人化していた知見を組織の資産へと転換し、現場主導の変革を後押しする仕組みづくりに挑んでいます。デジタル活用支援チームとして、この取り組みを牽引してきた阪田和樹氏と新藤達郎氏に、構想の背景から運用の工夫、そして見えてきた成果までを詳しく聞きました。

「あの人に聞けばわかる」――巨大組織のDXを阻んでいた「人脈依存」の壁

―― 近鉄グループホールディングスについてご紹介をお願いします。

近鉄グループは、日本最大級の私鉄ネットワークを軸に、地域の生活と観光を支える複合サービスを展開しています。運輸、不動産、国際物流、流通、ホテル・レジャーなど、あらゆるライフシーンに寄り添う幅広い事業ポートフォリオが強みです。グループ横断での戦略的連携を推進し、各事業領域を連動させた価値提供を通じて、地域活性化と持続的な成長を目指しています。

―― Backlog導入の背景には、グループ全体が抱えるDXの課題があったそうですね。

近鉄グループホールディングスでは、中期経営計画でグループ経営強化のための共通基盤として「DX経営の推進」が掲げられ、
「『攻めと守りのDX』両輪での推進」
「DX人材の確保・育成」
「サイバーセキュリティの強化」
といった観点から、グループ一体での変革を進めています。

一方で、約250社を擁する巨大グループであるがゆえに、各社の事業特性や成熟度はさまざまであり、一律のDX施策を一気に適用することは現実的ではありませんでした。

さらに、大きな壁となっていたのが、「人脈と個人の善意への依存」です。ITに関する困りごとが生じた際、解決の鍵は「詳しい人を知っているかどうか」にありました。属人的なネットワークを頼りに、「〇〇のことならあの人へ」とグループ内に点在する担当者を探し出す必要があり、対応の経緯や判断が組織として記録・共有されない状態になっていました。

―― ハブになっている担当者がいなくなると、知見が途絶えてしまいますよね。

おっしゃる通りです。異動があれば、その瞬間にナレッジは消滅します。「過去にどう解決したか」を確認する術もなく、後任はゼロから人脈を作り直さなければなりません。中期経営計画でDX推進が掲げられる中、この構造を打破し、誰もがアクセスできるオープンな窓口を作る必要がありました。そこで発足したのが、グループ各社のDXを支援する「デジタル活用支援チーム」でした。

 

近鉄GHD 阪田氏

近鉄グループホールディングス株式会社
総合政策本部 デジタル戦略部 係長
阪田 和樹 氏

「一問一答」で終わらせない。Backlogで「相談」を「解決すべきタスク」に変えた

―― その状態を解消するために、デジタル活用支援チームとしてどのような一手を打たれたのでしょうか?

まず着手したのは、グループ各社がDXに関する困りごとを相談できる窓口の設置です。具体的には、「近鉄グループデジタル相談窓口プロジェクト」を立ち上げ、まずはグループ各社の方々が気軽にDXに関する相談ができる環境を作りました。

最大の目的は、これまで個人のメールや会話の中に消えていたノウハウを「組織の資産」として蓄積することです。そのために、まずは相談の入り口を専用フォームに一本化し、「ここに聞けばいい」というルートを明確にしました。

―― 運用ツールとして、Backlogを選んだ決め手は何だったのでしょうか。

一般的なメールやチャットでのやり取りは、一度回答してしまうと、その後の進捗が追えなくなったり、情報の波に埋もれて忘れ去られたりしがちです。つまり、相談が「やり取りして終わり」になってしまいます。

しかし、ITやデジタル関連の相談は「答えて終わり」ではなく、その後に調査や調整、実作業が続く「線」の動きが必要です。Backlogであれば、フォームに寄せられた相談を、自動的に「未着手」という状態の課題として登録できます。

―― 「未着手」として登録されることで、何が変わるのでしょうか?

解決してステータスを「完了」に動かすまで、その相談は「未解決の課題」として残り続けます。これにより、「今、誰が対応していて、どこで止まっているのか」「誰がボールを持っているか」を可視化できます。

メールのように「返信したから自分の仕事は終わり」という受動的な感覚ではなく、「このチケットを完了させるまでが自分の責任だ」という能動的な意識に変わるのです。

この「進捗を誰でも見える状態にして、放置させない仕組み」こそが、プロジェクトを着実に前進させる鍵となりました。また、このプロセスのすべてがログとして残るため、後から誰でも参照できる「組織の資産」になっていくのです。

近鉄情報システム 新藤氏

近鉄情報システム株式会社
ソリューション事業部
新藤 達郎 氏

効率化の裏側で徹底した、テキストによるホスピタリティ

―― 仕組み化にあたって意識されたことはありますか?

効率性はかなり重視しました。具体的には、Microsoft Formsで相談を受け付け、その内容が自動的にBacklogの課題として起票される仕組みを構築しました。「誰がいつまでに対応すべきか」を確実に管理できるようにし、入力の手間を省きつつ、履歴の漏れを物理的にゼロにしました。

フォームとBacklogの連携イメージ

Microsoft FormsとPower Automate、Backlogを連携し、フォームから送信された内容がメールを通じて自動的にBacklogの課題として起票されるように設定している

また、ツールを導入して終わりにするのではなく、運用の徹底にもこだわりました。所属の異なるメンバーが参加するため、対応のばらつきを防ぐための手順書や記載ルールを策定し、説明会を実施。さらに定例会議の場で、内容が適切に記録されているかを継続的に確認しました。泥臭いかもしれませんが、この運用がシステムを形骸化させない秘訣です。

届いた相談はいきなり担当者に振るのではなく、事務局が内容を精査し、最適な専門部署へアサインします。この交通整理が、専門部署への無駄な依頼や手戻りを防ぐフィルターになっています。

ツール運用で特に気をつけたのは、実は「テキストの書き方」なんです。相談への返信を見た上司から「冷たい印象がある」と指摘を受けまして(笑)。効率を重視してテキストだけでやり取りすると、どうしても事務的で冷たい印象を与えてしまいます。相談者は、何かに困り、不安を感じているわけなので、それに対して「〇〇は××です」と正論だけを返すと、せっかくの窓口が敬遠されてしまうんです。

―― デジタルだからこそ、“温度”が問われるのですね。

そうかもしれません。例えば、語尾に一言「他にもお手伝いできることがあれば、いつでもご連絡ください」と添えたり、相手の背景を推察する言葉を加えたりと、「テキストでのホスピタリティ」を徹底しました。それが結果的に、相談しやすい空気感の醸成に繋がりました。

近鉄GHD 取材風景

異動があっても混乱ゼロ。Backlogに蓄積されたログが自走をアシスト

―― 導入後、効果を感じたエピソードはありますか?

われわれ「デジタル活用支援チーム」が軌道に乗ったタイミングで主要メンバーが異動した時に感じました。それこそ、かつて「人脈のハブ」だったようなレジェンド級の担当者が異動になったのですが、現場の混乱を避けられたんです。

普通なら「あの人がいないと何もわからない」となるはずですが、少なくともこのプロジェクトが始まって以降の対応については、すべての対応履歴、検討プロセス、使用した資料がBacklogに紐付いて残っていました。そのため後任者も、プロジェクト開始後にどのような相談があり、どのように判断・対応してきたのかを把握したうえで業務を引き継ぐことができました。

すべてを一度に可視化できたわけではありませんが、「これから積み上がる知見が、確実に組織の資産として残っていく」手応えを感じた出来事でした。

―― コミュニケーションの形にも変化はありましたか?

「あの案件、今誰が対応しているんだっけ?」と確認し合う場面がほとんどなくなりました。Backlogを見れば、各相談の担当や進捗状況がすぐにわかるからです。

また、過去にどのような相談があり、どのように対応してきたのかを検索して参照できるようになったことで、対応の判断に迷う時間が減ったと感じています。

グループ会社からの相談自体はフォームを通じて継続的に寄せられていますが、支援チーム内で状況を探り合うような「伝言ゲーム」は起きにくくなりました。
また、グループ会社側の視点でも、変化はあったと考えています。

これまでは「誰に聞けばいいのか」を探すところから始まっていましたが、現在はフォームに必要な情報を入力すれば、窓口に相談できる。その情報をもとに担当者が整理したうえで連絡するため、初回のやり取りの時点で、ある程度方向性が見えた状態で話ができるようになりました。

すべてが一度で解決するわけではありませんが、「誰に何から説明すればいいのか分からない」という状態を減らす設計にはなっていると感じています。

Backlogに蓄積された“財産”を活用する未来へ

―― 今後、このプラットフォームをどう活用していきたいですか。

Backlogに蓄積されたナレッジは私たちの財産です。今後はこれをさらに活用し、将来的にはデータをAIで分析・活用できれば、より効果的な支援が可能になると考えています。また、ポータルサイトで各種資料や参考サイトなどを「セルフサービス」として公開したりすることで、グループ全体のデジタルリテラシーの底上げにも貢献していきたいです。

近鉄グループのIT人材はまだまだ多いとは言えません。非IT人材の方々も「ITで困ったら相談すれば良いんだ」と思っていただき、DXを積極的に進めていけるような環境にしたいと思っています。

ホールディングスという立場だからこそ、各社に寄り添いながら支援する役割を担い、相談窓口を通じて蓄積された知見を活かしながら、各社が自立して課題を解決していける環境を整えていく。そんな「自走する組織」へと進化させるための伴走を、これからも続けていきたいですね。

―― 貴重なお話をありがとうございました!

あわせて読む

※掲載内容は取材当時のものです。

チームで使えるプロジェクト・タスク管理ツールならBacklog